被爆した方々は現状を伝えたくないわけではなかった。
けれども、国が行ったこの戦争のせいで人生が変わってしまった彼らに世間は石を投げてくる。
投げてくるのは現実を知らないからで、この裁判が「知らせる」役割の一端を担っていたのは事実。
昭和38年。判決が下りる。
昭和37年1月、原告のひとり、吉田ミキ(入山法子)が法廷に立つことを承諾し、広島から上京してくる。一方、星家ではのどか(尾碕真花)の態度に不満が爆発し、優未(毎田暖乃)が家を飛び出してしまう。登戸の猪爪家に連絡したら大ごとになると考えた寅子(伊藤沙莉)はどうしたものかと頭を悩ませる…(114話)
昭和38年6月、桂場(松山ケンイチ)は最高裁判事のひとりに任命され、竹もとで修業に励む梅子(平岩紙)、そして道男(和田庵)にも人生の転機が訪れる。更年期の不調を抱えながら、認知症の百合(余貴美子)に向き合う寅子(伊藤沙莉)。そして同38年12月、「原爆裁判」の判決が言い渡される(115話)
あらすじ は 公式サイトより引用
連続テレビ小説「虎に翼」第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」第114・115話
感想
仕事や用が詰まっていて、週末のレビューが遅れがち。
ここは細かく書きたい所だったけれど……さらっと。
というか、この後は何をやるのだろ。
変わったことの責任
星家の事情は正直あまりどうでもいいのだけれど、轟法律事務所に駆け込んだ優未に、遠藤さんが語ったことはとても考えさせられることだったので、そこは書いておきたい。
のどかお姉ちゃん、お世話をしてくれなくて。
それでついお姉ちゃんのこと蹴り飛ばしちゃって…。
でも、どうしても謝りたくない。
おばあちゃんに疲れてるのはみんな一緒なのに…。
それでも怒っちゃ駄目なの?
こんなの正直、星家がお金持ちなのに介護に十分にお金を出さず、娘たちをヤングケアラーにしようとしているのが間違いだよね。
とは思うけれど、ここはそういう話ではなく。
怒っちゃいけないことなんてないよ。
僕もね、許せない人や物事がたくさんある。
ず~っと怒ってる。ただ口や手を出したりするってことは変わってしまうってことだとは覚えておいてほしい。
と優未に語る遠藤さんが優しくて落ち着いていて、ああ、だから轟に愛されるのだな、愛されているのはこの人間性なのだなと納得してしまった。
その人との関係や状況や自分自身も…。
その変わったことの責任は優未ちゃんが背負わなきゃいけない。
口や手を出して何の責任も負わないような人にはどうかならないでほしい。
これは、しみじみ、よねさんに聞かせたいよね……。
いや、私も身に覚えが(笑)
人に不機嫌を向けたら、その人との関係がそこで終わってしまうかも知れないのは事実。
しかし、人との関係を断たれたくなくて黙ってしまうのも何か違う。
大切なのは伝え方と「ひと呼吸」なのだろう。
やめましょう
裁判の前日、原告側証人の吉田さんが上京してきた。
入山法子さんなのでお顔立ちは美しいけれど、原爆で負った火傷は顔にもおよび、ケロイドが張り付く状態。
国側は吉田さんにとってつらい質問をしてくるでしょうが、我々がお守りしますので安心してください。
と岩居先生は言うけれど、守れないよ……。
傷ついた人の傷を抉るのが裁判というもの。
吉田さんは事務所に泊まることになっているらしい(ビックリ…)。
よねに向かって、
あなたきれいね。りんとしている。
と言う吉田さん。
私、美人コンテストで優勝したこともあるの。
自分で言っちゃうけど誰もが振り返るほどの美人だった。
今日、上野駅に降り立った時それを思い出したわ。
振り返る人の顔つきは違ったけれどね。
そういう自虐が出ちゃうほど、苦しい18年だったでしょうね。
そういう「かわいそうな女」の私がしゃべれば同情を買えるってことでしょ?
差別されない…。
どういう意味なのかしらね?
自虐が続く吉田さんに、よねは言うのだった。
やめましょう。
えっ?
無理することはない。
私の相棒はもともと反対していました。
あなたを矢面に立たせるべきではない。
たとえ裁判に勝ったとしても苦しみに見合う報酬は得られないと。
声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる。
傷つかないなんて無理だ。
実際には、無理して法廷に立っても、本当にさらし者になるだけで「勝つ」ことは無かったと思う。
でも、この時は国民の無関心を「関心」に変える必要はあった。
でも私、伝えたいの…。聞いてほしいのよ…。
こんなに苦しくてつらいって…。
その策は考えます。
よねは約束した。
判決
吉田さんは法廷に立たず、轟が手紙を代読する形で証言に替えた。
「私は広島で爆心地から2キロの場所で被爆しました。21になったばかりの頃でした。体が燃えて皮膚はボロボロになり顔に頭、胸、足に被害を受けました」
「娘を産んだ際、原爆で乳腺が焼けて乳をやれず。夫は私が3度目の流産をしたあと家を出ていきました」
「ただ人並みに扱われて穏やかに暮らしたい。それだけです」
「助けを求める相手は国以外に誰がいるのでしょうか」
被告側からの尋問は当然無く。
判決の日を迎える。
残念ながら原告に賠償請求する権利があると認めることは法的に不可能と言わざるをえません。
と言う汐見さんに、寅子は言う。
はて?
そうでしょうか?
請求棄却のひと言でこの裁判を判決を終わらせてはいけない。
それは我々の総意では?
例えば最後にもう少しだけ書き加えるのはどうでしょう?
判決の日、汐見裁判長は、
判決主文を後に回し、先に判決理由の要旨を読み上げます。
という異例の措置を取る。
主文を先に読んでしまったら、記者がそれだけを持って裁判所の外に出てしまうからね。
判決理由を主文より先に読む。
伝えたいことは理由の中にこそあるのだと、精いっぱいの反抗が見えるようだ。
当時、広島市にはおよそ33万人の一般市民が、長崎市にはおよそ27万人の一般市民が住居を構えており、原子爆弾の投下が仮に軍事目標のみをその攻撃対象としていたとしても、その破壊力から無差別爆撃であることは明白であり、当時の国際法から見て違法な戦闘行為である。
では損害を受けた個人が国際法上、もしくは国内法上において損害賠償請求権を有するであろうか?
残念ながら個人に国際法上の主体性が認められず、その権利が存在するとする根拠はない。
人類始まって以来の大規模、かつ強力な破壊力を持つ原子爆弾の投下によって被害を受けた国民に対して、心から同情の念を抱かない者はないであろう。
戦争を廃止、もしくは最小限に制限しそれによる惨禍を最小限にとどめることは人類共通の希望である。
不幸にして戦争が発生した場合、被害を少なくし、国民を保護する必要があることは言うまでもない。
国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き傷害を負わせ不安な生活に追い込んだのである。
原爆被害の甚大なことは一般災害の比ではない。被告がこれに鑑み十分な救済策をとるべきことは多言を要しないであろう。
しかしながら、それはもはや裁判所の職責ではなく、立法府である国会および行政府である内閣において果たさなければならない職責である。
それでこそ訴訟当事者だけでなく原爆被害者全般に対する救済策を講ずることができるのであって、そこに立法、および立法に基づく行政の存在理由がある。
終戦後十数年を経て高度の経済成長を遂げた我が国において、国家財政上これが不可能であるとは到底考えられない。
我々は本訴訟を見るにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである。
主文。
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
原告側は負けた。
賠償を国家に要求するという点では負けたけれど、
- 原爆が国際法に違反している事。
- 戦争責任が国にあること。
その点をハッキリ明示した。
これは、戦争から何となく背を向けて何となくやり過ごしていた国民を揺り起こす大きな意義のある裁判だった。
どの国も、戦後長い長い時間をかけて、少しずつ自国の罪と向き合ってきた。
なのにまだ繰り返しているんだよね……。
戦後80年も経ってしまい、真実を伝える声を持つ人々は鬼籍に入り、作られる戦争映画はファンタジーお涙頂戴ものばかり……。
あの戦争で亡くなった方々はこの世界をどう見ておられるだろう。
真実を遺して伝えるとは、難しいもの。
この裁判の回は、このドラマの肝。だと思っている。
伝わっていると良いけれど。
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広告虎に翼 キャストとスタッフ
キャスト
佐田(猪爪)寅子 – 伊藤沙莉
星航一 – 岡田将生
猪爪直明 – 三山凌輝
猪爪(米谷)花江 – 森田望智
猪爪直人 – 琉人
猪爪直治 – 楠楓
佐田優未 – 毎田暖乃 ← 竹澤咲子(子役期 : 山中天喜→三上ひめな→斎藤羽結→金井晶)
佐田優三 – 仲野太賀
猪爪直道 – 上川周作
猪爪はる – 石田ゆり子
猪爪直言 – 岡部たかし
山田よね – 土居志央梨
桜川涼子 – 桜井ユキ
大庭梅子 – 平岩紙
崔香淑(汐見香子) – ハ・ヨンス
轟太一 – 戸塚純貴
花岡悟 – 岩田剛典
小橋浩之 – 名村辰
稲垣雄二 – 松川尚瑠輝
玉 – 羽瀬川なぎ
桂場等一郎 – 松山ケンイチ
汐見圭 – 平埜生成
久藤頼安 – 沢村一樹
多岐川幸四郎 – 滝藤賢一
杉田太郎 – 高橋克実
杉田次郎 – 田口浩正
高瀬雄三郎 – 望月歩
深田仁助 – 遠山俊也
小野知子 – 堺小春
入倉 – 岡部ひろき
森口美佐江 – 片岡凜
穂高重親 – 小林薫
星朋彦 – 平田満
星百合 – 余貴美子
桜川寿子 – 筒井真理子
桜川侑次郎 – 中村育二
笹山 – 田中要次
竹中次郎 – 高橋努
久保田聡子 – 小林涼子
中山千春 – 安藤輪子
雲野六郎 – 塚地武雅
増野 – 平山祐介
大庭徹男 – 飯田基祐
稲 – 田中真弓
壇 – ドンペイ
浦野 – 野添義弘
語り – 尾野真千子
虎に翼 スタッフ
◆放送期間 : 2024年4月1日 ~ 2024年9月 日(予定)(全120回)
◆制作 : NHK(AK)
◆平均視聴率 : %
◆制作統括 : 尾崎裕和
◆プロデューサー : 石澤かおる,舟橋哲男,徳田祥子
◆演出 : 梛川善郎,安藤大佑,橋本万葉
◆脚本 : 吉田恵里香
◆音楽 : 森優太
◆主題歌 : 米津玄師「さよーならまたいつか!」
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