「水中に月影をすくい上げようとするかのごとし」は、モデルの帝人事件の判決文「水中に月影を掬するが如し」が採用されている。
非常に美しい名文。
武井裁判長のセンス、素晴らしい……ではなく、これは桂場さんが書いた判決文だったのね。
昭和11年12月。一年半に及んだ直言(岡部たかし)の「共亜事件」がいよいよ結審の日を迎えた。寅子(伊藤沙莉)とはる(石田ゆり子)は傍聴席から直言を見守り、法廷の外では優三(仲野太賀)やよね(土居志央梨)たちが待っていた。裁判長の武井(平田広明)が言い渡した判決は―。判決後、穂高(小林薫)は桂場(松山ケンイチ)と酒を酌み交わし、判決文に込められた思いを絶賛する…
あらすじ は 公式サイトより引用
連続テレビ小説「虎に翼」第5週「朝雨は女の腕まくり?」第25話
感想
そういうことか。これは寅子が「裁判官」になるための物語だった。
そしてこのエピソードはその切っ掛けになる事件だったのか……。
納得の結末。
16名全員無罪
主文。被告人らはいずれも無罪。
武井裁判官長の判決を聞き、傍聴席に感嘆の声が上がる。
理由。本件公訴事実第1の要旨は株式会社帝都銀行が共亜紡績株式会社ほか諸会社の整理に助力し…。
検察側が提示する証拠は自白を含めどれも信ぴょう性に乏しく、本件において検察側が主張するままに事件の背景を組み立てんとしたことは、あたかも水中に月影をすくい上げようとするかのごとし。
すなわち検察側の主張は証拠不十分によるものではなく、犯罪の事実そのものが存在しないと認めるものである。
「あたかも水中に月影をすくい上げようとするかのごとし」
美しい表現。
これは同時に自白の強要が認められたということにもなる。
作り上げられた自白による冤罪だったわけなのだから……。
無罪判決を受けて、1年半も苦悩の中に居た猪爪家にもやっと緩やかな空気が戻った。
トラ、ありがとう。
お前がいたからこうしてみんなとまた食事を心の底から楽しむことができる。
父さんの言うことを信じないでくれてありがとう。
フフフフ、何それ。
トラを明律に行かせてよかった。
これは本当だねぇ……。
法学を学ぶ娘と、その学友や恩師の協力が無かったら、恐怖に打ち勝てず冤罪を受け入れていたかもしれない。
ずっと寂しさや不安や恐さを我慢して来た はるさんが直言父さんに抱きついて号泣している図も可愛かったわ。本当に良かった。
あたかも水中に月影をすくい上げようとするかのごとし
「帝人事件」というモデルがあったのだから、全員無罪は想定内だったけれど、分かっていても感動する判決シーンだった。
「帝人事件」判決時、左陪席裁判官として判決文を書いた石田和外氏の名文「あたかも水中に月影を掬するが如し」を、落ち着いたトーンで重々しく聞かせていただけた。
「水中に月影を掬するが如し」とは、「猿猴捉月(えんこうそくげつ)」のこと。お猿さんが水面に浮かぶ月の影を一生懸命救おうとしている絵があるのですね。
ありもしない物を一生懸命取ろうとして失敗する姿を現している。
結局、政治勢力が絡み、検察の強要が批判されたわけだけれど、この事件の黒幕といわれた人物は探し出されて処分されることもなく、そのまま権力の座に座り続ける。
そして戦後、戦争に関わったA級戦犯として巣鴨プリズンに入れられる。
罰が当たるまでが長いねぇ……。
それにしても名判決文だった。
「あたかも水中に月影をすくい上げようとするかのごとし」。
うん、よい。実に君らしい。
と、ベタ褒めされる桂場さん。
桂場さんのモデルは石田和外氏だったらしい。
武井判事から聞いたんですか?あれ書いたのが私だと。
聞かなくとも分かるよ。
君の中のロマンチシズムが怒りがよ~く表れているじゃないか。
ロマンだけじゃないね。
蟻一匹通さぬ見事なまでに一分の隙もない判決文だった。
あれじゃあ控訴のしようがないね。
潔癖ですから。
君は許せなかったんだろう。
検察が力を振りかざして司法に干渉してくるのが。
干渉?そんなもんじゃない。
あいつらは私利私欲にまみれたきったねえ足で踏み込んできやがったんですよ。
司法の独立の意義も分からぬクソバカどもが!
桂場さんに変な脅しを掛けようとしたのが裏目に出ちゃったね。
法律はきれいなお水が湧き出ている場所
寅子は、甘味屋常連な桂場を待ち伏せ。頭を下げる。
あの…ありがとうございました。
どうしてもお礼を言いたくて待ち伏せしてしまいました。
勘違いするな。
誰のためでもない。
私は法を司る裁判官として当然のことをした。
不機嫌そうな桂場に向かい、寅子は今回の事件で得た答えをペラペラとまくしたてた。
私はずっと…それこそここで桂場さんとお話をしたあと女子部に入ってから考え続けてきたんです。
法律とは何なのかって。
私は法律って守るための盾や毛布のようなものだと考えていて、私の仲間は戦う武器だと考えていて…。
でも今回の件でどれも違うなって。
桂場の体制が、ちょっと前のめりになる。
続けて。
法律は道具のように使うものじゃなくて、何と言うか法律自体が守るものというか…。例えるならば きれいなお水が湧き出ている場所というか。
水源のことか?
はい。私たちはきれいなお水に変な色を混ぜられたり汚されたりしないように守らなきゃいけない。
きれいなお水を正しい場所に導かなきゃいけない。
桂場は納得したように言葉を返す。
何だ。
君は裁判官になりたいのか?
君のその考え方は非常に…。
ああ、そうかご婦人は裁判官にはなれなかったね。
そう。
この当時はまだ女性は判事にはなれなかった。
しかし、よく分った。
このエピソードにヒロイン一家を絡めたのは、この体験から「裁判官」という位置を目指そうと決めたからなんだね。
以前、考えたように「法律とはそれぞれの考え方」という結論では圧倒的な正義は保たれない。
弁護士は依頼人に有利な方向に導くために法律を使う。(ね、アンチヒーロー!)
検察は被告人の罪を決定づけるために法律を使う。
それぞれの話を聞いて、
「きれいなお水を正しい場所に導かなきゃいけない」
のは裁判官の仕事だ。
寅子は、そこに辿り着き、桂場は導く立場になるのかしら……。
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広告虎に翼 キャストとスタッフ
キャスト
猪爪寅子 – 伊藤沙莉
猪爪はる – 石田ゆり子
猪爪直言 – 岡部たかし
猪爪直道 – 上川周作
猪爪直明 – 三山凌輝
猪爪(米谷)花江 – 森田望智
佐田優三 – 仲野太賀
山田よね – 土居志央梨
桜川涼子 – 桜井ユキ
大庭梅子 – 平岩紙
崔香淑 – ハ・ヨンス
轟太一 – 戸塚純貴
花岡悟 – 岩田剛典
小橋浩之 – 名村辰
桂場等一郎 – 松山ケンイチ
穂高重親 – 小林薫
桜川寿子 – 筒井真理子
桜川侑次郎 – 中村育二
笹山 – 田中要次
竹中次郎 – 高橋努
久保田聡子 – 小林涼子
中山千春 – 安藤輪子
雲野六郎 – 塚地武雅
増野 – 平山祐介
大庭徹男 – 飯田基祐
星航一 – 岡田将生
汐見圭 – 平埜生成
稲 – 田中真弓
久藤頼安 – 沢村一樹
多岐川幸四郎 – 滝藤賢一
語り – 尾野真千子
虎に翼 スタッフ
◆放送期間 : 2024年4月1日 ~ 2024年9月 日(予定)(全120回)
◆制作 : NHK(AK)
◆平均視聴率 : %
◆制作統括 : 尾崎裕和
◆プロデューサー : 石澤かおる,舟橋哲男,徳田祥子
◆演出 : 梛川善郎,安藤大佑,橋本万葉
◆脚本 : 吉田恵里香
◆音楽 : 森優太
◆主題歌 : 米津玄師「さよーならまたいつか!」
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