【聖なる怪物たち】第6話

あの日から私の望みは一つだった。

だから弱さに付け入り、正義を踏みつけた。
全てを闇に葬り、全てを終わらせ、嘘を真実に変えた。

真実は、永遠の眠りにつくはずだった。

でも、闇に差す一筋の光のようにあの事件を終わらせられない人間がいた。

 

「聖なる怪物たち」第6話

 

　　　　　　　

健吾は、あれ以来、ずっと退院した新生児について調べつづけた。
手掛かりは少なかったが、少しでも行方を知りたかった。

 

あの赤ちゃんの事ですが引き取り先の住所に行ってみたんです。
でも その住所はまったくのデタラメでした。

調べたんですか？

院長。
あのご遺族に赤ちゃんを渡してしまってよかったんでしょうか。
もう一度、ちゃんと調べて…。

あの一件は もう終わったんです。

あの子を母のない子にしてしまったのは僕です。
僕にはあの子を見届ける責任が…。

もういいと言ったでしょ！
これ以上 あの件を蒸し返す事はご遺族の感情を逆なでするだけです。

詮索無用。
いいですね。

 

亡くなった妊婦に関する健吾の入れ込みようは、傍目に異常なほどに見えた。

もちろん。院長の目にも。
そして、優佳の目にも…

真実を知る人間ほど、健吾の姿に危機感を持った。

 

ふと、健吾は病院にある雑誌の表紙の男に目を止めた。
それは間違いなく、あの日新生児を連れて帰った「ご遺族」だった。

「日向敏雄」
健吾はその人物が居る場所に走った。

敏雄は、ホテルで母と食事をした後だった。

大勢の人目もはばからず、健吾は敏雄に突っかかって行った。

 

日向敏雄さんですね。
大久保記念病院の司馬と申します。

うちの病院から赤ちゃんを引き取られましたよね？

敏雄は驚いた。
極秘で連れ帰ったはずの子供。
あの日、タクシーを追ってきた男…。

人違いをされているのでは？

あの赤ちゃんは、今どこにいるんですか？

人違いだと言ってるだろう。なんなんだ、君は！

あなたの奥さんがあの子の生まれた２日後に
赤ちゃんを産んだと記事で見ました。

敏雄は警備員を呼んで、健吾を外に追い出した。

お願いします！あの子の事を教えてください！
日向さん！
お願いします！あの子の事を教えてください！

連れ出されながら、健吾は叫び続けた。

 

翌日、健吾は院長から呼び出され、大学病院に戻るという人事を伝えられた。

糸川と、手術を自分がする約束をしている。
健吾は食い下がったが、異動は決定だった。

大久保記念病院には、すでに健吾の代りとして竹内が来ていた。

突然の有りえない異動に健吾の心には疑念しか湧かなかった。
瑶子にまで急に別れると言われた。

何もかもがおかしかった。

竹内に「日向敏雄」の事を聞くと、慶林大学病院の塩野教授のパトロンだという。

お前も前に日向敏雄の嫁さんが流産してドレスのまま運ばれたの見たじゃん。

日向の奥さんって、その後どうなった？

それより、やっぱここは不便だなあ。
金が良くなきゃ絶対断ってた。

金？

これからは慶林大学が、ここを全面支援するんだって。

 

その頃、日向家では優佳が「圭子の子供」慶の検診をしていた。

発育は順調ね。反応もいいし、心雑音もないわ。

よかった。
ねえ、病院は大丈夫？

優佳は、圭子に何も心配せず育児に専念するように言った。

ありがとう。姉さん。

私ね、これでやっと幸せになれた気がするの。

この子は姉さんとも血の繋がりのある子よ。
この子は、姉さんと私の生きてきた証しでもあるの。

ありがとう。圭子。

圭子は慶のために事業をもっと拡大したいと話した。
しかし、姑がうるさくて仕事に復帰できないと。

優佳は不安を覚える。
この計画は、全て日向家と共に行ったものなのだ。

敏雄さんのお母さんとは穏便にしておくのよ。

これからは言いたい事は言うわ。

私、慶を守るために強くなるの。
あの人の言いなりになってたら慶がダメになるわ。

幸せな圭子は、この子の立場が日向家との秘密の上に成り立っている事を
まだ知らない・・・。

 

慶林医大に移動した健吾は、「日向圭子」を調べた。
ロックされていて教授の端末でしか見れない圭子のカルテ。

うまく教授の部屋に入り込み、資料を漁ると、圭子の医療記録を見つけた。

そこには、健吾が驚愕する記録が残されていた。

「2月14日　子宮摘出」

 

健吾は、再び日向敏雄の行先に向かった。

その日、日向家は敏雄の妻・圭子が著した育児本の出版パーティを行っていた。

檀上の女は、あの日病院で健吾が挨拶した春日井師長の妹だった。

挨拶が終わると、圭子は健吾を見つけて自分から近寄ってきた。

姉さんの病院の先生よ。
司馬先生。こんにちは。

にこやかに近寄ってきた圭子を見て、健吾は面食らった。

先生、この子があの時おなかにいた子です。

抱かせて頂いていいですか？

ええ。もちろん。

 

健吾は赤ん坊を腕に抱いて、あの日の事を思い出した。

亡くなった妊婦。

自分が取り上げた帝王切開の男の子……。

名前は慶といいます。

慶君…。
男の子だ…。

健吾は、渋い顔で圭子に寄り添っている敏雄をにらんだ。

日向さん。この赤ちゃんは…やはり…。

 

その時だった。

健吾は近づいてきた優佳によって会話を中断された。

会場の裏に連れて行かれると、健吾は待ちきれずに口火を切った。

 

あの子は…
あの日亡くなった女性の子ですね？！

いいえ。 慶は確かに圭子と敏雄さんの子です。

妹さんは妊娠以前に子宮を摘出しています。
子供が産めるはずがありません！

慶は代理出産で産まれたんです。
出産は代理母が行いましたが、遺伝子は圭子と敏雄さんのものを受け継いでいます。

健吾は目の前が真っ暗になった。
代理出産…日本ではそんな医療は認められていない。

法律、倫理、道徳。
そんな議論に付き合っていたら今頃 妹は死んでいました。

でも、あの人は死なずに済んだかもしれない！

三恵さんが亡くなったのは不幸な事故でした。

 

あの妊婦は有馬三恵という女性である事。
幼稚園の保母であった事。
身寄りがないので遺体は優佳が葬った事。

健吾は初めて全てを知った。
そして、この出産のために多くの隠ぺい工作が行われたことも。

師長…。

僕は、あなたの事をずっと信頼してきました。
まさか、あなたが僕をだましていたなんて！

司馬先生。
あなたは優秀な医者です。
１年足らずでしたが一緒に仕事が出来て光栄でした。
もう二度とお会いする事もありませんが。

慶林大学でいい医者になってください。

いい医者ってなんですか？師長…。
病院の不都合には目をつぶる都合のいい医者って事ですか？

あの子は日向家の子供として大切に育てますのでご安心ください。

あの子は選ばれた子供です。
何不自由ない誰もがうらやむ人生が約束されているんです。

幸せに満ちた人生が。

優佳はそう言ってパーティ会場へ戻っていった。

 

健吾は、幼稚園を訪ね、有馬三恵の知り合いが来て
連絡先を置いていった事を知った。

三恵の故郷の千葉の墓所で、健吾はその男と会った。

男は本間篤志と名乗った。
三恵と付き合っていたのだと言う。

不倫の関係だったが、三恵がこの町を出てからも時々会っていた。

昨年、妻と離婚した事を伝えたかったのに連絡が取れなくなった。と。

 

僕が、もっとちゃんと捜していれば…。
いつも事故には気をつけろって言ってたんです。

どういう事ですか？

三恵は輸血が間に合わなくて死んだんでしょ？

輸血？

ご存じかと思ってました。
三恵は珍しい血液型なんです。

珍しい血液型…？

 

健吾は、あの手術の日を思い出した。

Ｏ型プラス、繋ぎます。

師長は確かにそう言った…。

出血は止まらなかった。
どんなに輸血し続けても…輸血を全開にしても…。

 

健吾の中で全てが繋がった気がした。

 

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健吾の詮索の仕方は、ある意味変な「情熱」のように見えた。

初めて死なせてしまった患者へのショックと拘りは解る。

しかし…
人目が多い所で敏雄に食って掛かっていく姿は異常にも見えてしまった。

「正義」というよりも「純白」なんだね…
悪い事など考えたこともない、予想も出来ない純粋さ。
まるで子供のようだ。

普通・・・あれだけ解ってきたら・・・

「危ない」と思うでしょう。
大人しくしてないと自分も…と危機感抱くでしょう。

なのに、健吾は真っ直ぐにひた走る。

この真っ直ぐさが、汚れた人たちにとっては恐怖なんだよ。

 

田中哲司さんは、今回、ただの良い人なんだ(不倫はしてたけど　)
彼から聞いた三恵の血液型の話で、全てを察した健吾。

そこまで察したら…
普通はもう騒がないよね…。

でも、健吾は不正をそのままにしておく事が出来ない。

 

・・・で、次回予告で逮捕ですか…正義は、なかなか勝たない。

 

さて…

三恵の不倫相手といい、平井瑶子といい、案外良い人だと解った。

この人たちが何とか健吾の味方になってくれるだろうか。

 

急展開したな～と思ったら、全8話なのだそうで…
来週は、もう最終回1話前なのね～！

 

　　
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※キャスト

司馬健吾 … 岡田将生
春日井優佳 … 中谷美紀
日向圭子 … 加藤あい
日向敏雄 … 長谷川博己

平井瑶子 … 大政絢
有馬三恵 … 鈴木杏
森宮希実代 … 森脇英理子
竹内悠 … 南圭介
佐藤久美 … 富永沙織
「　　」… 長谷川朝晴

糸川要次郎 … 渡辺いっけい
水原良二 … 勝村政信
司馬宗吾 … 平田満
大久保志郎 … 小日向文世

本間篤志 … 田中哲司

日向華江 … 山本陽子
　
　

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・「まぁ、お茶でも」さん
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