【家族八景】 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad 第5話

「紅蓮菩薩」

 

主婦にとって大切なのは家庭の評価。
「賢い妻」である事が女の砦だったのに…

七瀬の言葉が1つの家庭を地獄に突き落とす。

 

「家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad」第5話

 

     簡単感想で。

 

火田七瀬は、人の心が読めてしまう能力者である。

今回、七瀬が勤めることになったのは、根岸家。
家族構成は、36歳の旦那様と29歳の奥さま。そして生後10か月の赤ん坊。

 

菊子奥様と初対面の日、七瀬は早速、赤ちゃんを見せられる。

赤ちゃんの月齢がよく解らない。みんな同じように見えるという七瀬に
奥様は朗らかに笑った。

面白い事をおっしゃるわね、貴女。まだ10か月よぉ。

奥様は、品の良い可愛らしい笑顔の女性だ。

七瀬は無理やりのように赤ちゃんを抱っこさせられた。

「まかせられないわね。このこに あかんぼうのせわは」
「なんかいうことあるでしょ ひとさまのあかんぼうをだいたら 
なんかいうことあるでしょ」

七瀬が人の心を読む時、人は違う姿に見える。
この家では、どうやら水着姿に見えるようだった。

あ・・・、かっ、かわいい~・・・ですねぇ。

まだ10か月だし。猿みたいでしょ。

いえっ。全然、猿じゃありません…猿には見えません。

「さるじゃないことは わたしがいちばん よくわかってるわよ」

 

続いて奥様は家を案内してくれた。

あ、主人はね、父が学長を務める大学で助教授をしているの。
あ、心理学のね。

凄いですねぇ

別に凄くなんかないわよぉ。
「よしっ! うまれたばかりのあかちゃんにだいがくじょきょうじゅのおっと 
えにかいたような しあわせなかてい」
「あとは・・・」

奥様は、廊下に落ちている下着を「まあっ」と言って拾う。

しょうがない人ねぇ。
主人はね、ほら、研究に没頭し過ぎている事が多くて、こういう所がだらしなくて。

「かしこいつまのいめーじが これできわだつ!」

このアピールのために、パンツをわざとそこに置いたのだろうか、と七瀬は驚く。

「きんじょに いいふらして! わたしが かしこいつま だって いいふらして!
じぶんで いいふらすわけには いかないのよ。
そのために ひつようもないのに あなたをやとったんだから」

間もなく、旦那様が帰ってくると、七瀬は初対面の挨拶をした。

火田七瀬です。

よろしく。

旦那様は気難しそうに挨拶を返したが、七瀬を見て引っかかる事があるようだった。

「ひた? ひた? ひた… どこかで そのなまえを きいたような…」

しかし、まぁいいか。と旦那様は自分の部屋は許可なく掃除しないように言い渡した。

「おんなこどもに だいじなけんきゅうしりょうを かきまわされてはかなわん」

期待してたのに。
心理学と聞いて、私の能力の事が解るかと期待してたのに。
掃除させてもらえないとなると、資料を盗み見る事もできないなぁ。

七瀬には、この家の主人が心理学者だと聞いて、自分の事を調べる事が
できるかもという期待があったのだった。

間もなく、七瀬はこの夫婦は偽りの笑顔と会話で成り立っている事を知る。

まず、旦那様は浮気をしており、それを奥様は見抜いている事を知った。

「しんりがくぶは おんなのこがおおいから こんなおとこでも 
うわきあいてがみつかるんだわ」

そんな旦那様に対し、浮気なんて全く気付いていないふりをする事が、
「賢い妻」なのだと奥様は思っているようだった。

ワイシャツに付いた口紅を七瀬に見られて、奥様は取り乱した。

嫌だわ~これ!これ、私の口紅!早く落とさなきゃ、私の口紅!

と、七瀬に言いながら、必死にワイシャツをこする。

「ころがさなきゃ てのひらで おっとを ころがしてなきゃ そうじゃなきゃ…」
「かしこいつま おしとやかでかしこいつま かいがいしくかしこいつま
ひかえめなかしこいつま かしこいつま かしこいつま かしこいつま…

そうして、いつも旦那様が何かに思いふけっているのを見ては、
嫉妬の炎を燃やしている。

「おんなのことを いま おんなのことを かんがえてる」
「おんなのことを かんがえひたりながら なっとう かきまぜてやがる」
「おんなのあじにひたりながら いものあじが わかんのか?」

なのに、口ではニコニコ笑いながら、旦那様に「お芋さん」を勧めているのである。

「やはりよい じょしだいせいの はだは よい」
「まぁこのくらいの ひあそびは よい ばれないぶんには よい」

バレてるから。

すごい演技力、と思いながら、七瀬は、この仮面夫婦を黙って見守るしかない。

 

あそこまで浮気を確信してるなら、旦那様を問い詰めて、掴みかかって
泣き叫べばいいのに。

そうしたらもっと楽になれるのに。

奥様、浮気を確信すればするほど演技が完璧になっていく。

 

奥様が旦那様にベッドを拒絶された翌日、七瀬は奥様が出かけている間に、
密かに旦那様の部屋に忍び込んだ。

心理学の本はさっぱり解らなかったが、七瀬はそこで一冊のファイルを見つけ、
父の名前を発見したのだった。

そこには「ESP 聴覚感覚的知覚」と書いてあった。

「火田精一郎」
父は、何らかのテストを受けていたようだった。

七瀬は、父のテスト結果を破り取り、自分のポケットにしまいこんだ。

そして、部屋から出た途端に、旦那様が帰ってきたのを知った。
旦那様は「火田」が何者か思い出し、慌てて帰ってきたのだった。

「おもいだした」
「ひたせいいちろう のじっけんけっかはすごかった」
「このこにも のうりょくが いでんしているかもしれない」
「さっそく じっけんしよう」

 

旦那様の部屋に呼びこまれ、七瀬はソファに座らされた。

お父さんは元気?

死にました。3年前。

「しってるよ まぁいちおうな てじゅんとしてな」

お父さんには、ESPカードのテストという物を受けてもらったんだ。
「このけんきゅうけっかをはっぴょうできれば きょうじゅにだって 
しょうしんできるかもしれない」

七瀬は不安におののいた。

万が一、私の能力がバレたら、きっと見世物にされて酷い目に遭う。

何としても、テストだけは避けなければ

窮地に陥った七瀬は、何とかテストを逃れるために…

 

あのぅ…旦那様ぁ。
あたしぃ、奥様が帰ってくる前に、お掃除とぉ、お洗濯とぉ、色々やらなきゃ…。

それは、僕から菊子に言っておくからね。

あたしぃ、心理学とかよく解らなくてぇ。
あたしが奥様に怒られちゃうんでぇ。

馬鹿なふりをしてみた。

「ぐどんだ このこは ぐどんだ」
「ちちおやは あんなに りこうたったのに」

そして、見事に引っかかった旦那様は、七瀬を怒鳴りつけてくれたのだった。

だから、私が言っておくと言っているだろう!

七瀬は、旦那様の上着のポケットに入っている目薬を使って泣いた。
愚鈍な女は怒られれば泣くものである。

自分の何がいけなかったのか理解できない旦那様は、七瀬を優しく解放してくれた。

それほど急ぐこともないかな。今日はいいや。
もう、いいよ。

「まあいい。 じかんはたっぷりある」

旦那様の部屋を出た七瀬は、一応ほっとしたものの、考える。

何とかこの場は切り抜けたけど、いずれ必ずテストを受けさせようとするだろう。

ふと、見ると、いつの間にか奥様が玄関に立って、じっと七瀬を睨んでいた。

「かせいふにまで ついに かせいふにまで てをだした」
「けだもの!」

ななちゃん、そこで何をしているの?

いえ、旦那様にお茶を…

慌てて目薬の涙をぬぐう七瀬。

お茶を運んだら涙が出るの?
「けだもの ゆるせない」

しかし、奥様は相変わらず笑顔を崩さなかった。

 

そうだ。この奥様の怒りを利用しよう。

七瀬の前を通り過ぎて2階へ上ろうとする奥様へ七瀬は嘘を投げつけた。

 

奥様!旦那様は浮気をしています。

私、見ちゃったんです。ラブホテルから出てきたのを。

奥様は微笑みながら七瀬を振り返った。

ありがとう。
・・・そのこと、誰にも言わないでね。

 

ななちゃん、これが賢い妻なのよ。

奥様は、そのまま2階へあがろうとしている。
七瀬は畳みかけた。それは、とどめを刺す言葉だった。

 

馬鹿って言ってました!

旦那様とその女の人、笑いながら馬鹿って言ってました!
人にどう見られるかしか考えてない頭の悪い女だって。

奥様は足を止めた。

そして…

振り返った奥様は笑っていた。

笑っていた。いつものように。

 

赤い血の涙を流しながら。

全身を真っ赤に燃え上がらせながら。

 

真っ赤な奥様は、ゆらゆらと七瀬に近づいてきた。

七瀬は恐怖で腰を抜かし、立ち上がることが出来なかった。

おひまを……おひまをいただかせてください…。

震える声で懇願する七瀬に、真っ赤な奥様は言った。
微笑みながら。

 

無理ないわね。

さようなら。

 

七瀬は、その足でそのまま根岸家を出た。

七瀬がその夫婦と会う事は二度となかった。

 

旦那様の部屋の窓ガラスに、何か光る物を持った
真っ赤な奥様の影が映ったような気がした…。

 

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

「紅蓮」とは燃えるように真っ赤なハスの花。

仏教では、紅蓮地獄に落ちた者は身体が裂けて血を流し、
紅蓮のように真っ赤に燃え上がるのである。

菊子さんは、家庭を良く見せることが全て。
そのためには、賢い妻でいなければならなかった。

七瀬は、そんな奥様のやっている事が理解できない。
言いたい事は剥きだしになってぶつければ良いと思っている。

もちろん、七瀬の「馬鹿」という言葉は、自分を守るための言葉だったわけだが…

七瀬の想像以上に奥様を引き裂いてしまった。

感情をむき出しにさせる事は、結果的にこの人自身を剥きだしにさせた。
地獄に落としてしまったのである。

 

紅蓮菩薩は、七瀬自身。

無邪気で無慈悲な菩薩である。

 

赤んぼうは、元々、この家にとって単なる「幸せの象徴」なので…
幸せがなくなれば当然、消えてなくなる。

 

まるっきりホラーのようで…良い演出だったわ。

本当に恐いのは、心霊ホラーなんかじゃなくて、生きている人間の感情の方だよね。

 

次回(第6話)のゲスト出演者は、公式が更新され次第追記。

 

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※キャスト

火田七瀬 … 木南晴夏

第5話

根岸 新三 (36) … 眞島秀和
根岸 菊子 (29) … 井村空美
若い女 … 河原実乃梨
赤ん坊 … 小安正笑 / 佐藤美月

※スタッフ

原作:筒井康隆
脚本:佐藤二朗
演出:深迫康之

 

 

 

 

コメント

  1. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    > 母の愛が消えてしまえばこの世に愛はなくなってしまう。
    > そういう恐怖ですね。

    そもそも、この作品、最初から赤ちゃんなんていたの?
    実は冒頭のシーンは七瀬と奥様が見ている妄想なんじゃないの?
    と思ってしまうほど、鮮やかに存在感のない子どもでありました…。

    > ああ、愛があってよかった。
    > 母の優しい手があって・・・と
    > 現実に戻りほっとするかしないかは
    > 母の愛を知っているかどうかにもより
    > それは「理想の息子」のあの子の心に通じていきますな・・・。

    大丈夫。海さんはにはちゃんと愛がありますよ^^
    自分では気づかないだけで。
    一番ひどいのは、無視する事ですね。
    殴るよりも怒鳴るよりも存在を無くすこと。
    この赤ん坊の母は、子供の存在を無くしてしまうのでした。
    役に立たないと知ったら…。

    > 母が子とともに消滅していく原作よりも
    > 個人主義によって母子関係そのものが消滅するドラマは
    > ある意味、原作を越えているようでございます。

    まったくその通りでございます…。

    ちなみに、くうは、二朗さんのパンツを洗って差し上げましょう。
    愛しい一郎の飼い主だと思えば愛おしさもこみあげるもので・・・

  2. 家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad TOP

    2012年1月より、毎日放送(MBS)制作・TBS系列の深夜ドラマ枠にて『家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad』(かぞくはっけい ナナセ・テレパシー・ガールズ・バラッド)のタイトルで放送中。木南晴夏は本作が連続ドラマ初主演となる。 原作 『家族八景』(かぞくはっ…

  3. キッド より:

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    ゆりかごを揺らさない手でございますねえ。
    良妻賢母の中で赤ん坊が道具と化していく。
    そのおそろしさ・・・極め付きです。
    母の愛が消えてしまえばこの世に愛はなくなってしまう。
    そういう恐怖ですね。

    ブッダは鬼子母神の愛し子を隠すことによって
    彼女の悪行を諌めるわけですが
    その手が通用しないとき・・・進退きわまるのでございます。

    ああ、愛があってよかった。
    母の優しい手があって・・・と
    現実に戻りほっとするかしないかは
    母の愛を知っているかどうかにもより
    それは「理想の息子」のあの子の心に通じていきますな・・・。
    母が子とともに消滅していく原作よりも
    個人主義によって母子関係そのものが消滅するドラマは
    ある意味、原作を越えているようでございます。

    まあ、パンツが佐藤二朗が脱ぎ捨てたとしか
    思えない一瞬は別として。

  4. 外面如菩薩内面如夜叉の如く紅蓮の炎に包まれた十一面観音菩薩が十一面荒神に退行し紅蓮菩薩と化した時、震えた乙女(木南晴夏)

    原作では「水蜜桃」→「紅蓮菩薩」という順になっている。続編である「七瀬ふたたび」の萌芽がこの二作には色濃い。七瀬がミュータント(突然変異種)として人類に対して「生き残りをかけた戦い」を挑むからである。もっともそれはあくまで正当防衛のスタイルである。 「水?…

  5. 家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad 第5話 紅蓮菩薩

    『紅蓮菩薩』

    内容
    根岸家にやってきた七瀬(木南晴夏)
    この家では、水着で見えるようだった。
    夫・新三(眞島秀和)と菊子(井村空美)には、10ヶ月の赤ん坊がいた。
    新三は、大学で心理学の教授をするということで満足げな菊子。
    明らかに自慢をしたいようだった。…

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