会社は、そこで生きる人間たちを思いも寄らない魔物に変える。
その日私は、開けば二度と元には戻れない扉を開こうとしていた。
七つの会議 第3話
弁護士の加瀬が八角に質問する。
今回の不祥事発覚はあなたが切っ掛けだと伺っています。
あなたが坂戸さんの不正に気付いたのはいつごろですか?
軽く笑って見せる八角。
あんた、営業には向かないな。
加瀬も薄く笑った。
今回、この調査を担当して大勢の方にお話を伺ってきました。
その中で誰もがその変わりように驚いたという方が2人います。
あなたともう一人、原島さんです。
原島さんがああいう事をする人間だと思っていましたか?
当たり障りなく泳ぐしか能のないやつ…。
そう思ってたよ。
「隠蔽せよ」
という宮野社長の命を受けて、営業部長の北川、製造部長の稲葉、人事部長の河上、
そして八角と原島は極秘で会議室に集まる。
サノケンが出した告発文書が、今、会社を揺るがしている。
副社長には?
知られていません。そうだな?
佐野室長は内部告発するメンバーから村西副社長だけ外したようです。
あの人はフロンティアからの出向組だからと。
サノケンの野郎。社長を動かして俺や北川を失脚させようとしやがった。
憎々しそうに言う稲葉。
社長が隠蔽を決定したおかげでサノケンの狙いは外れ、今は大人しくなっているらしい。
強度不足のネジの事は村西さんだけには知られちゃまずい。
フロンティアに通報されたら一発で終わりだ。
で、これからどうするって?
2つある。
トーメイテックに関する全てを伏せ不正の事実を隠蔽する事。
既に流通している製品のネジを替える事。
隠蔽にヤミ改修か…。
普通のパソコンチェアはまだしも、航空機や列車の座席はどうするのか。
それらは定期点検の際にコッソリ付け替えるしか方法は無かった。
この方法で国内の車両製品など全てのネジを取り替えるとなると最短で5年かかります。
これはあくまで順調に作業が進んだ場合の話で、航空機は10年たつと国外へ売却されて
しまいますから、長引けば改修はほぼ絶望的という事に。
急げ!改修は必ず全て終わらせろ。
原島、お前がやれ。
そのために一課長にしてもらったんだろう。
一課長になるというのは、こういう事だったのか…。
眉間にしわを寄せて話を受けるしかない原島。
5年か…。
毎朝、新聞開く度にびくびくするんだろうな。
もしその間に事故でも起きたら…。
話は坂戸前一課長が何故こんな大それた事をやらかしたのかという事に及び、
各部長の責任のなすりつけ合いに終わった。
坂戸か…。
ハッカク。
坂戸はお前が捜せ。
見つけたらどこでもいい。ビジネスホテルに放り込め。
死なれちゃ迷惑ですか。
坂戸の不正を見つけたのはお前だ。
お前にはあいつを見届ける責任がある。
原島には全てのネジを交換するという後始末を。
八角には坂戸の後始末を。
それぞれ押しつけられて話し合いは終わる。
浜本は、社内でのドーナツ販売開始に向けて準備をしていた。
浜本は意外と押しが強いんだな。
ドーナツ販売もあっちこっちで文句つけられながら、結局役員会まで通したもんな。
と、八角。
通すだけじゃ駄目なんです。
残さないと。
やっと分かったんです。
会議で上に色々言われる度へこんだけど、でも、それは私が何も考えて
なかったからなんだなって。
ただやりたい事にこだわってるだけで。
私がいなくなった後や、もっと先の事、会議ではそういう事も試されてたんだなって。
私は今月で辞めちゃうけど、でも、ここで開く店はずっと残しますよ。
この会社で私が初めて作る場所なんですから。
八角は感慨深くこの話を聞いた。
そうか…そうだな。
残さないとな。
原島は「ねじ六」にネジの追加注文を頼みに行った。
あの…同じ単価で納期を少しずつ早めロットを増やしてもらいたいんです。
こんなに?
発注書を見て目を丸くする「ねじ六」の社長・三沢。
原島さん。
この納期でロットが増えるのは正直きつい。
支払いの半分、前渡しにして頂く訳にはいきませんか?
生産態勢整えるのに、こちらも資金がかかります。
原島は何とかすると答えた。
三沢の妹・奈々子に言われる原島。
三沢さん…。増注は嬉しいです。
飛び上がりたいくらい。
何十倍でも何百倍でもお役に立ちたいです。
でも、そのためには人を増やさなくちゃなりません。
雇ったらその人たちの生活も考えなくちゃ。
この子の事だって。
2年前、そうやって生産態勢を整えた途端、お宅から契約を切ると言われました。
同じような事しないで下さいね。
北川に前渡しの話をすると、今、大きく金を動かすことは危険だ、と断られる。
ネジの転注だけでも、充分怪しまれている現状…。
大量のネジ注文が経理に知られる事で、秘密が露見する可能性があった。
下請けぐらい言いなりにさせろ。
事も無く、そういう北川。
ずっと世話してきた部下の佐伯は、何でも話してほしい、と言ってきたが、
原島には抱えている問題を佐伯に話す事は出来なかった。
秘密を話す事。
それは、巻き添えにすることを意味していたから。
会社の帰りに父の病院に寄り、眠っている父に向かって愚痴る。
一課長なんて…俺には無理だ。
何もできないし、営業成績も上げられない。
会社の不祥事に…何もできない。
誰も…救えない。
隠蔽工作はみなに不審がられながら、それでも密やかに進められていた。
そんな折、問題は唐突に起きた。
サノケンさえ告発文書を送るのをためらった副社長の村西に、誰かが告発文のコピーを
送りつけたのである。
北川は村西に呼び出され、内容はでたらめだと言い訳した。
親会社のフロンティアは村西の報告を受け、東京建電に監査に入る事を決定した。
一方、原島は、ちょうど「ねじ六」を訪れている時に、奈々子の娘が通う隣の幼稚園で
スクールバスのシートが外れるという事故が発生した事を知る。
…そうだ。そのバスだ。その地区で一斉に点検に入るらしい。
うちのシートが使われてるかどうか早急に調べてくれ。
事情は後で説明する。
「ねじ六」を出て、急いで佐伯に電話する原島。
空には飛行機が飛び、高架下には列車が走っている…。
いつまでこんなプレッシャーに耐えなければならないのか。
原島は、その場で吐いた。
社長がフロンティアから呼び出しを受け、監査の実施を宣言された件で、
事情を知る者は全て呼び出される。
村西副社長に真実を話して抱え込むか、このまま副社長に隠し通して事を運ぶか。
話はそこから始まる。
村西さんに打ち明けるというのはフロンティアに切り札を渡すのと同じ事です。
本社に返り咲くため、村西さんがどこで裏切るか分からない。
じゃ、どうすりゃいい!
フロンティアからの監査は拒めない。
ネジの強度偽装が知れたらうちは…いや、うちだけじゃない。
東京建電に関わる取引先の全ては完全に息の根を止められる事になるんだぞ!
宮野社長は机を蹴る。
なぜ、今なんだ。
長い間、うちはフロンティアの天下り先に甘んじてきた。
それを耐えて耐えて必死で業績をあげてきたんだ。
独自のカラーを出そうと開発にも力を入れた。
営業も広げた。
プロパーの社員たちでやってきた事が、やっと実を結ぼうとしている
この時に…何で…。
20年前、関東電鉄に納入した新車両あのコンペに競り勝ったのがうちが
軌道に乗るきっかけだった。
な、北川。稲葉、河上。
思い出せ。思い出せよ!
これまでの苦労に比べたらここを乗り切るくらいどうって事ない。うん?
誰か、そういうやつはいないのか?
その時。
立ち上がったのは原島だった。
監査を…切り抜けましょう。
この調査を乗り切ってフロンティアから東京建電を守る。
それしか方法はありません。
君が…やってくれるのか?
条件があります。
欠陥のある製品を一刻も早く改修しなくてはなりません。
この監査を乗り切ったら、そのための十分な費用と人員の確保をお約束下さいますか?
ただの一度でも事故が起きれば、弊社は今まで培ってきた全てを失います。
製品への信頼もプライドも何もかも!
東京建電の誇りを貫くためには顧客の安全、下請け企業や社員の生活を
断固守らなくてはなりません!
お願いします!改修のためのチームを。
それさえ約束して頂ければ5年かかる改修を3年で…いや、2年で全て終えてみせます!
そのためなら隠蔽もやむなし。そういう事か?
原島は社長としっかり向き合った。
はい。
了解した。
死に物狂いでここから抜けろ。
不良のネジを回収して、車両倉庫の管理人室のロッカーに隠す。
20年前と同じ隠し場所らしい。
トーメイテックに発注していたネジのデータの全てを隠蔽する。
当然、原島1人で出来ることではない。
顧客の安全を守り、社員が安心して眠るためには今までネジを取りつけた製品全ての
部品を密かに交換しなければならない。
リコールすれば回収は簡単だ。
しかし、それをやれば東京建電の信用は地に落ち、親会社のフロンティアから潰され、
東京建電の下請け会社も共倒れになる。
もちろん「ねじ六」も。
隠蔽する事が、みんなを救う方法だと信じてその方向に向かう決断をした原島。
しかし、そんな原島を八角は苦々しく見ている。
会議で吐き出されるみんなの本音。
保身保身保身ばかり。
守りたいのは会社でも顧客の安全でもなく、自分の立場。
渋さを通り越して、我欲を剥き出しにしたどす黒い男たちを演じる俳優陣の素晴らしさ…。
監査のシーンは手に汗握った。
充分に準備して全て隠し通して、無事に終了した…はずだった所に内部から裏切り者が出る。
その日に社内で開店した浜本のドーナツコーナーで八角が買った差し入れのドーナツの
袋に書かれた「車両室のロッカー」の文字。
フロンティアの監査が開いたロッカーの中に入っていたのは、管理人の私物だった。
不良品のネジを詰めた段ボールは、原島があらかじめすり替えて浜本に預けていた。
つまり…原島は初めから疑っていたという事。
八角を。
しかし八角だけは私欲で原島を陥れようとしたわけではない。…たぶん。
お前、自分のした事が分かってんのか?
企業のリコール隠しに加担して隠蔽作業に関わったんだぞ。
問い詰められて、そう言う八角。
ほかに何がありますか?教えて下さい!
私は臆病な人間です。
何の才能もない平凡な人間です。
強度不足のネジで街を危険にさらしたくない。
けれど、会社を壊す度胸もない。
下請けの仕事を奪う勇気もない。
だったらこういうやり方しかないじゃないですか!
死に物狂いでこの場を乗り切るしか!
いいか。
組織っていうのは、組織っていうのはな、そんな簡単なもんじゃないんだよ。
会社っていうのはお前のその善意を利用するんだ。
つけ込むんだよ。
目を覚ませ。
八角には、もしかしたら原島が自分のように見えたのかもしれない。
会社のためになろうと夢中になって頑張っても、会社はその熱意や善意を利用するだけ。
不必要になったら、危険になったら、切り捨てる。
だから、告発文書を副社長に送った。
監査で不良が発覚するように仕組んだ。
けれども、八角自身も何をしてくれば良かったのか、何が正しいのかは解らない。
今の原島と同じ。
あなたがそんな事を言ってる間に東京建電のネジを使ったシートで航空機が空を飛び、
鉄道車両が世界中を走り回ってるんだ。
私は…このまま進みます。
八角は、なおもフロンティアに連絡を入れ、原島は坂戸とやっと連絡がつく。
坂戸も…何か事情があってやむを得ずトーメイテックの不良ネジを使う事になったんだよね…。
北川あたりが、本当は全ての悪事の発端のような気がする。
監査でネジの強度不足が発覚しなかった事をついつい喜んでしまったけれども…
それって企業の隠蔽が成功した事を喜んだって事なんだよなぁと消費者としては
複雑な気持ちになる。
原島同様、見ている方も何が正しいのか分らなくなってくる。
もちろんリコールするのが正しいよ。
けれども、もしもウチが「ねじ六」だったらと考えると、そんなことしてもらっちゃ困る
という気持ちにもなってくる。
視聴者にまで、自分の利を考えずに正しくある事について突きつけてくるドラマだ。
あっという間に時間が過ぎる。
自分的には初回の感触がビミョウで…それは、進みが早いから人物の関係も物事の流れも
掴みにくかったからだと思うんだよね。
もう少し時間をかけて丁寧にやってくれてもいいドラマだと思う。
せめて全6話くらいにしてほしかった。
これだけの内容で全4回はもったいなさすぎる…。
…という事で…次回は最終回。
※見逃した方、第3話の再放送は明日28日24:10~25:10 NHK総合。
なお、次週第4話・最終回は21時30分からの放送なのでお間違えなく~。
製品にまつわる大がかりな隠蔽を知った原島(東山紀之)は、ほかにどうすることも
できず、ヤミ改修に手を染める。
東京建電の親会社「フロンティア」から出向中の副社長・村西(北見敏行)
に内部告発の文書が届き、本社から定期調査に名を借りての調査チームが
送り込まれてくる。下請の町工場で働く人びとの暮らしや、現場で額に汗する社員たちのことを思い、
原島はデータを改ざんしてその調査を切り抜けようと決意するが…。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
よろしければ→【2013年7月期・夏クールドラマ】ラインナップ一覧とキャスト表
※キャスト
原島万二 … 東山紀之
八角民夫 … 吉田鋼太郎
坂戸宣彦 … 眞島秀和
原島江利子 … 戸田菜穂
佐伯浩光 … 田口淳之介
加瀬孝毅 … 堀部圭亮
新田雄介 … 山崎樹範
浜本優衣 … 村川絵梨
川上省造 … 矢島健一
三沢逸郎 … 甲本雅裕
三沢奈々子 … 遊井亮子
加茂田久司 … 野間口徹
稲葉要 … 中村育二
佐野健一郎 … 豊原功補
奈倉明 … 戸次重幸
梨田元就 … 神保悟志
原島の父 … 竜雷太
北川誠 … 石橋凌
宮野和弘 … 長塚京三
※スタッフ
脚本 … 宮村優子
制作統括 … 谷口卓敬
演出 … 堀切園健太郎
音楽 … 横山克
原作 … 池井戸潤 『七つの会議』
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七つの会議 TOP
『七つの会議』は、2013年7月13日から、毎週土曜日21:00 – 21:58に、NHK総合で放送中。東山紀之主演。全4回予定。 概要 大手電機メーカーの下請け子会社を舞台に「内部告発」をテーマとし
NHK土曜ドラマ『七つの会議』 第3回
『すべてが壊れていく』
内容
売り上げのための不良品使用を知った原島(東山紀之)
だが宮野和弘社長(長塚京三)は、
北川誠営業部長(石橋凌)らに隠蔽を命じる。
北川は、親会