春日局様の看病をするにあたり、私は自分の心をのぞいてみたのや。
しかし自分の心ほど分からんもんはないな。
ただ一つだけ言えるのは、この大奥において無用の者となった私が
誰かの役に立つというのは、ただそれだけで嬉しい気持ちがあるのや。
大奥～誕生～［有功・家光篇］第8話
春日局の次の間に病人を運び入れ、有功が看病する日々か始まった。
春日局様の部屋に寝泊まりとは、まことですか！？
春日の看病など、有功様がなさるべきことではございません。
それに春日は…憎い敵やございませんか。
そもそも春日がおらねば有功様は今ごろ…今ごろ慶光院の院主として
全く違う有功様であったはずやのに！
怒りをあらわにする玉栄に有功は言う。
この大奥において無用の者となった私が誰かの役に立つというのは、ただそれだけで
嬉しい気持ちがあるのや。
そなたから見たら、しょうもないお人よしに見えるやろな。
昔から変わらない有功を見たようで、玉栄は笑った。
あなた様はやはり有功様や。
昔とちっとも変わったはらへん。
赤面疱瘡が早く発症したお楽の部屋子は、相次いで亡くなり、お楽もまた
重症であった。
有功は精一杯お楽の世話に尽くしたが、お楽は有功の手から柿を食べさせてもらい、
孤独が救われた中で看取られて亡くなっていった。
最後にもう一度だけ…千代姫様のほっぺに触りたかった…。
それが最後の言葉だった。
赤面疱瘡の患者はいなくなったが、有功は春日の世話を続けていた。
春日の容体も悪くなる一方だった。
やせ細り、食べる力がなくなっても薬断ちを続けていた春日。
私の父は…謀反人といわれた明智光秀様の重臣でございましての…
私の覚えている唯一の父の姿は…はりつけ台の上の遺骸でございました。
自分の生涯を有功に語って聞かせる春日。
いよいよ弱ってきたある日、春日は枕元に村瀬を呼んだ。
正資。そなた、毎日私に大奥でのこと報告するために覚書をしておったな？
はい
その日記を私亡き後も続けるよう。
このままではこの国はもうすぐ滅びる。
それまでこの国が…徳川家がどうなっていくか、最期まで見届けてほしいのじゃ。
日記の名は…そうじゃ、「没日録」とでもしておくがよい…。
そして、その日の夜、春日は有功に丁寧に頭を下げた。
有功殿。さぞかし私を恨んだことでありましょう。
僧侶であった私を無理やり還俗させたことでございますか？
のみならず、生木を裂くように上様から遠ざけた…。
そなただけではない。
少なからぬ人々が私のために泣き、時には命さえも…。
しかし将軍家が栄えれば戦がなくなるのです。
戦がなくなりさえすれば、誰も泣くことのない平和な世の中になるのです。
全ては…
平和な戦のない…そのために…。
せき込む春日を支えながら有功は言う。
春日局様。
恨みませぬ。それどころか私はあなたに感謝しておるのです。
もちろん、あのときは恨みました。
心底あなたを憎みました。
けれど、私は苦しみを知りました。
今の私は病に、貧しさに苦しむ人々の心が分かります。
自分を助けるような気持ちで寄り添うことができます。
もしかすると、これこそが私の求めていた道であったのかもしれぬと思うと
春日局様に感謝したい心地さえするのです。
有功殿。
私が死んだ後、上様と、この大奥のこと…お頼み申します。
あなたこそ、それに相応しい。
どうか…どうか。
もとより承知しております。
この有功、命果てるまで大奥で上様にお仕えいたす所存。
有功の言葉を聞き、春日は安心して眠りについた。
春日は夢を見た。
幼い正勝を残して、将軍家の乳母になるために稲葉の家を出る時の夢だった。
「よく聞くのですよ、千熊。
母は…将軍家の乳母になろうと思います。」
「お一人で江戸へ？」
「そなたも乳飲み子のそなたの弟も置いてゆくのです。
鬼のような母だとお思いかえ？」
「母上。私も江戸へ参ります」
「千熊」
「生まれるお子がお世継ぎなら、私が そのお世継ぎの近習となりましょう。
さすればこの千熊も少しは母上のお役に立てましょうか？」
千熊にございます。母上！
いつの間にか正勝が枕元に来ていた。
家光も自分の名を呼んでいる。
上様…時が参りました…お別れの、時が…。
いいや！許さぬ。
そなたは、ずっと…わしのそばに…。
春日は笑った。
もう、このまま…いかせてください。
春日は我が子・正勝と、我が子のように見守り続けた家光に看取られて逝った。
いや！
春日…春日、春日……！
母に取りすがって泣く家光の声を聞きながら、正勝は部屋を出た。
「もし、まことに私が将軍家の乳母となれば、同じ江戸城内にいても
そなたは私のことをもう母と呼ぶことはできなくなるのですよ」
「はい。
それでも千熊は母上についていきたい」
抱き合って母と泣いた幼い別れの日。
そして江戸城で再び母と共に過ごした日。
耐えて来たのは母がいたからだった。
正勝は、今、本当に母を失った。
後日、有功は大奥で働く者を全員集めた。
村瀬正資。
そなたのお役目を「御右筆」と名付けよう。
これより先、大奥の文書は全てそなたが書き付けていただく。
それから、勝田頼秀殿にはこの大奥に必要な種々の日用品買い物 一切を
取り仕切っていただこう。
このお役目を「表使」と名付ける。仁科清成殿には……
みなが整然と居並ぶ中、有功は上座に座して次々と役割を振っていった。
これで、あまねくこの大奥に仕える皆全てにお役目を授けさせていただいた。
これからは皆、そのお役目に従ってこの大奥で上様に共にお仕えいたそう。
一斉に頭を下げる男衆…。
その頃、表では大名の総ぶれが行われていた。
面を上げい！
本日は、これより上様から皆にお言葉がある。
心して聞かれよ。
居並ぶ大名たちが頭を下げる中、家光は髪を結い女装束で上座に立った。
よう聞け！
父、三代将軍・家光は十年前すでにこの世を去られた！
わしは徳川の世を支えるため、その父上の名代として一時この将軍の名を
借りているにすぎぬ。
あくまでもこれは、いつの日かまた男子の人口が増え、男子が家督を継ぐようになる
その日までの仮の措置。
よって、わしは、父上の名である三代家光を名乗ることとする。
表向きのことは何も心配いらぬ。
優れた幕閣達の補佐により、政はつつがのう進められよう。
わしは、この徳川の世を永久につなげるために生まれてきた。
将軍という名の人柱である！
万が一、このまま男子が減り続けこの世が滅ぶというのなら、
わしも共に滅びるまでのこと。
誰か。
わしが女将軍となることに異存があるかえ！？
みなは声もなく、むろん異論もなく、ただこの若き美しき女将軍にひれ伏した。
。。。。。。。。。。。。。。。。。
お楽の死、それに引き続いて春日の死……。
籠に閉じ込められて動く事が出来ないまま死んでいった男と、閉じこめた女。
どちらも、看取ったのは有功。
お楽の死は哀れであっても救われた死。
春日の死は長年の罪悪感から解き放たれた死。
どちらの死も悲しく、でも、幸せな臨終だったと思う。
有功は2人を救った。
決して無用の者なんかじゃない。
そして、春日の死は時代を動かした。
凛として皆の前に立つ美しい家光。
異論など出ようはずもない。
居並ぶ大名たちのほとんどの跡継ぎも、すでに女であるのだから。
この日、江戸城の表では家光が、奥では有功が、最高権力者になった…。
怒涛の展開であり、素晴らしい回だった。
もう～、あちこちで泣き、ラストには多部ちゃんの凄さにトリハダが立った！
臨終の春日に取りすがって泣く切なさと、大名の上座に立つ時の凛とした演技の差。
スゴイよ多部ちゃん…。・泣
そして、母と別れた稲葉さん@平山さんにも泣かされた…。
稲葉さんこそ、これで将軍のふりをしなくて良くなって、本当にお役御免だよね。
もう、秘密も無くなったし、帰っちゃダメなの？
先週は首にぽつっと出来物ができていただけだったのに、もう亡くなってしまった
長男の死も知らないはずだし、母も息子も一度に失うなんて気の毒すぎる。
脚本から演出から役者さんまで神ドラマだな。ホントに…。
さて…
大奥総取締役になった有功が次回以降どうなるのか。
お玉は有功と今の関係を保てるのか…。
お玉の子どもはいつできるのか。
終りが近づいてきたね…。
【関連記事】
劇場版「大奥」感想【大奥】「男女逆転」ようこそイケメンパラダイス
赤面疱瘡に倒れたお楽（窪田正孝）を優しく看病する有功（堺雅人）。
「どうしてこんなによくしてくれるんですか？」と尋ねるお楽は、ほとんど何も
食べられなくなっていった。
また、春日局（麻生祐未）の容態もいっこうに良くならない。
「春日の看病など有功さまのするべきことではない」と玉栄（田中聖）は憤るが、
「大奥にて必要とされる人間であることが嬉しい」と有功に言われ「あなた様は
ちっとも変わっていない」と納得する。
「私のことをさぞかし恨んでいるのでしょう？」と有功に問う春日局。
有功はそれに対する答えを静かに語りかける。
それを聞いて春日は「自分の亡き後、大奥と上様のことを頼みます、あなたこそ、
それにふさわしい」と言い残し、家光（多部未華子）と稲葉正勝（平山浩行）に
見守られながら、この世を去る…。
母を亡くした正勝は、幼いころの自分を思い出していた。そして、家光が女将軍として宣言する日がやってくる…。
(上記あらすじは「Yahoo！TV」より引用)
よろしければ→【2012年10月秋期ドラマ一覧】ラインナップとキャスト表
【キャスト】
万里小路有功 – 堺雅人
徳川家光(千恵) – 多部未華子
玉栄 – 田中聖
稲葉正勝 – 平山浩行
雪 – 南沢奈央
村瀬正資 – 尾美としのり
明慧 – 駿河太郎
徳川家光 – 岩井秀人
万里小路有純 – 小日向文世
稲葉正勝の妻 – 南沢奈央
松平信綱の妻 – 生稲晃子
角南重郷 – 戸次重幸
和田正隆 – 遠藤要
勝田頼秀 – 夙川アトム
稲葉正則 – 西山潤
捨蔵(お楽) – 窪田正孝
溝口左京(お夏) – 市川知宏
松平信綱 – 段田安則
澤村伝右衛門 – 内藤剛志
春日局 – 麻生祐未
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コメント
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＞もう身代わりいらないんよね。正勝さま、どうなるんだろ？
出来る事なら、身代わりの間の時間を取り戻すべく
妻子と共に過ごさせてあげたいよねぇ・・・
うん…でも、秘密を知っちゃったから帰れないのかなぁ。
正勝さまが戻れれば、とりあえず娘が後継がなくていいかもね。
奥もまだ子供作れる年齢っぽいし～。
＞そして、イマイチわかんないのが・・・
女将軍宣言はあくまでも大奥内のみの
秘密であって、庶民には内緒にしとくのかしらん？
それは私もよく解らないところだわ～。
劇場版では八代の吉宗は堂々と女の姿で出てたけど、あれは
江戸城の中だけの話なのかのう…。
庶民もだいぶ男子は減ってたみたいだけど…。
＞愛すべき捨ちゃんと春日がいなくなり、新たな大奥の展開。
この終盤が、どう映画に繋がっていくのやら・・・
って年末は気ぜわしくて映画を見に行けるかどうか
わかんないのがトホホ
わしは絶対に行くぜよ！
菅ちゃんの綱吉、予告で見てるだけでも美しくてゾクゾクする～。
どう繋がってるのか楽しみだね^^
『大奥〜誕生[有功・家光篇]』第8話
春日局死す、初の女将軍誕生。
SECRET: 0
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もう身代わりいらないんよね。正勝さま、どうなるんだろ？
出来る事なら、身代わりの間の時間を取り戻すべく
妻子と共に過ごさせてあげたいよねぇ・・・
そして、イマイチわかんないのが・・・
女将軍宣言はあくまでも大奥内のみの
秘密であって、庶民には内緒にしとくのかしらん？
愛すべき捨ちゃんと春日がいなくなり、新たな大奥の展開。
この終盤が、どう映画に繋がっていくのやら・・・
って年末は気ぜわしくて映画を見に行けるかどうか
わかんないのがトホホ[絵文字:i-229]
「大奥 〜誕生[家光・有功編]」第8話。
11月も終わり、今年も残すところあと1か月。男女逆転大奥も佳境に入ってまいりました。
「大奥 〜誕生〜 ［有功・家光篇］」 第８話 春日局死す、初の女将軍誕生
「わしは、この徳川の世を永久に繋げるために生まれてきた将軍という名の人柱である！
万が一、このまま男子が減り続け、この世が滅ぶというのなら、わしも共に滅びるまでのこ …
大奥～誕生[有功・家光篇] 第8話
第8話「春日局死す、初の女将軍誕生」2012年11月30日 OnAir ある日、大奥内で赤面疱瘡が発病し、お楽の方(窪田正孝)も病にかかってしまう。有功は春日局(麻生祐未)を看病しながら、その次…
大奥～誕生～「有功・家光篇」第8話
有功の看病も空しく、
お楽の方は息を引き取った—-
赤面疱瘡の猛威の前になすすべない人々の前で—
遂に家光は宣言する
「わしは、・・・将軍という名の人柱である。
万が一、…
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なぜか第２話の方にこれのコメントが入っちゃってるみたいでした^^;
http://dramablog.cinemarev.net/blog-entry-3063.html#comment40593
なので、こちらでレスを～。
＞神回が続きますよね（＾＾）
多部ちゃんの姿、麻生さんと窪田くんの演技。
色々見ごたえある回でしたわ。
ホント、神回ですよね！
これってストーリーも凄いけれども、役者さんの演技がほんと素晴らしいですよね～。
＞まさに新しい幕府と大奥のあり方を見せてくれた回で、ラストまで引き込まれましたよ。
どこまで描いてくれるか、本当楽しみです♪
特にラストの多部ちゃんには見惚れてしまいましたわ。
すごい女優さんになったね～……
ラストまで楽しみです^^
大奥～誕生～[有功・家光篇] 第8話
有功（堺雅人）は、病に倒れた春日局（麻生祐未）だけではなく、流行り病の赤面疱瘡に掛かったお楽（窪田正孝）や部屋子たちを献身的に看病していました。
しかし、その甲斐もな
大奥〜誕生[有功・家光篇]第８話★女将軍・多部ちゃん「将軍という名の人柱である！」
大奥〜誕生[有功・家光篇]第８話
「春日局死す、初の女将軍誕生」
なんといっても、画面の下に出演者やスタッフのクレジットが流れ始めた番組最終盤の《女将軍・家光》の登場シー
大奥〜誕生［有功・家光篇］第8話：春日局死す、初の女将軍誕生
女将軍、誕生！ヽ(｀○´)/ｶﾞｵｫｰ!!
皆の前で堂々と宣言する女･家光さまが、かっこ良かった〜！多部ちゃん、やるぅ〜
だけど、将軍という名の人柱て・・・
春日が逝き、正則が亡…
大奥 誕生＆めだかボックス
１２月１日 大奥 誕生＆めだかボックス
アメブロが５月１５日よりＴＢ廃止する事が発表されましたので
５月１５日以降に更新した記事では当ブログでＴＢを受付ます
当ブログに
「大奥～誕生[有功・家光篇]」第８話
第八話「春日局死す、初の女将軍誕生」
大奥〜誕生〜［有功・家光篇］ 第８話
『春日局死す、初の女将軍誕生』
内容
将軍を女性に。。。幕府重臣達の進言に戸惑う春日局（麻生祐未）
そんななか、春日局は倒れてしまう。
有功（堺雅人）が献身的に看病を始める
大奥〜誕生〜［有功・家光篇］ 第８話
『春日局死す、初の女将軍誕生』
内容
将軍を女性に。。。幕府重臣達の進言に戸惑う春日局（麻生祐未）
そんななか、春日局は倒れてしまう。
有功（堺雅人）が献身的に看病を始める
ドラマ「大奥～誕生[有功・家光篇]」第８話…
春日逝く----------–！！ひとつの区切りで、新たな出発になる今回。ただ、有功がこのことをきっかけに自分の居場所や、すべきことを見つけた。これが一番大きな変化だったのではないか…
惨い世を避けるためには惨くあらねばならないという説なのじゃ(多部未華子)
歴史的に見ても、エンターティメントの世界でも徳川家光が人気を博すことはあまりない。 大日本帝国時代にはそもそも賊軍である徳川家に対する評価が低いわけである。 帝国が滅亡し
テレビドラマ「大奥 ～誕生～ 有功・家光篇」 第８話感想
全１０話放送予定のＴＢＳ系列の金曜ドラマ「大奥 ～誕生～ 有功・家光篇」。いよいよ残り３回となり、ラストも見えてきた今回は２０１２年１１月３０日放映分の第８話感想です。前…