【聖なる怪物たち】第7話

人は、皆嘘をつく。
何一つ包み隠さず生きられようはずがないから。

しかし、一つついた嘘を包むため、多くの嘘が必要になる。

嘘を消すには、嘘と真実をすり替えてしまえばいいのだ。
ただ、それだけの事。

 

「聖なる怪物たち」第7話

 

　　　　　　　

またその話ですか…。
立ち止まるのが好きなんですねえ。まだ若いにもかかわらず。

優佳は呆れたように言った。
健吾は、何度追い返しても三恵の死因について食らいついてくる。

どうして有馬三恵さんが急変したのか、それを知るのは重要な事です。
僕は、これを避けては医師として進めません。

新たな情報を得ました。
三恵さんは特殊な血液型だったそうです。
三恵さんが亡くなったのは輸血が原因という可能性が…。

そんな事はありえない、と優佳はキッパリ否定した。
有馬三恵の血液型は「O型プラス」で間違いない。

第一、輸血が原因で急変したのだとしたら、もっと早く亡くなっているはずだと。

あまりに食い下がってくる健吾に、優佳はとどめを刺した。

 

そんなに真実を知りたければ言って差し上げましょう。

三恵さんが亡くなった原因は…あなたが未熟だったから。

それがあなたが目を向けようとしていない真実の全てです。

 

健吾は、その後、院長から大久保記念病院での手術失敗の件を持ち出され、
謹慎処分になった。

もちろん、裏では優佳が手を引いていた。

しかし師長、これで一人若手有望医師が地に落ちましたなあ。
司馬君も頑張ってたから、なんか良心の呵責っていうか…。

そう言う大久保に、優佳は言い放った。

何を言ってほしいんですか？院長。

勘違いなさらないでください。
あなたも当事者です。
もう、誰もあなたの背中をさする事はできません。

これからは、ご自分の行動、発言は全てご自分で背負ってください。

 

瑶子は、健吾の事を考えて胸を痛めていた。
三恵の血液型の件を隠匿したのは自分自身だったから。

健吾の苦しんでいた様子が目に浮かぶ。

そして、ついに、三恵の血液を健吾の元へ持って行ったのだった。

 

健吾は、それを大久保記念病院の水原に託した。
ぶっきらぼうで口は悪いが、健吾を励ましてくれた人だ。

水原は、「虫唾が走る」と言いながらも、それを検査に出してくれた。

そして、その結果は健吾を驚愕させる物だった。

 

ボンベイ型？

インドのボンベイで発見されたからボンベイ型。
俺も昔聞いたかな？って感じだ。

水原は言う。

でな…、このボンベイ型に他の血液型を入れると激しい溶血反応が出る。
しかもボンベイ型のややこしいのは、手術室にある血液型の検査キットで調べると
…Ｏ型プラスの結果が出るそうだ。

Ｏ型プラス…。
Ｏ型プラス…。

他の血液と混ぜると激しい溶解反応が出る。

…あの日…出血は止まらなかった。
どれだけ輸血しても、血は足りなかった。
三恵は出血多量で死んだ。

ボンベイ型だったから！

水原は帰り際に、健吾に言った。

司馬。
気の済むまで走るつもりなんだろうけど、ちゃんと戻ってこいよ。

白衣着て。

 

健吾は事の全てを本間に報告した。

血液型の件は、看護師のミスだ。
だが、患者に関わった担当医として把握していなかったのは、やはり自分のミスだ。

頭を下げる健吾に、本間は笑って「ありがとう」と言ってくれた。

本間さん。
三恵さんは、最後に…旅立つ時に…赤ちゃんを産んだんです。
命を作り、この世に残して逝ったんです。

しかし、その子は…。

そこまで話した時、健吾の中に疑惑が湧いた。

そんな人が…そこまで好きな人がいた三恵さんが、自分のおなかで他人の子を…？
ありえない。

 

健吾は、三恵の血液をDNA鑑定に出した。
結果、三恵とのDNAの一致は、99.99%

日向慶の実母は、三恵だった。
代理出産は成立していなかったのだ。

それでは、当然、父親の方も……。

 

大久保記念病院に優佳に会いに行った健吾は、自分の患者だった糸川の
病室に顔を出した。

糸川は、ちょうどオペの日だったが、健吾の手術でなければ受けないと
拒否している所だった。

糸川の癌は、今切除すれば回復の可能性は高いのだ。
健吾は自分にオペをやらせてくれと、水原に頼み込んだ。

お前さぁ、マジで医師免許、剥奪されるぞ。

水原は、そう言いつつも、秘密で健吾にオペをやらせてくれた。

 

その話は、優佳と大久保の耳にも入った。

 

やらせて差し上げればいいんじゃないですか？
気の済むようにさせるしかありません。

そうですね。

自分から炎に飛び込まれちゃあ仕方ない。
いくら若手有望医師でも。

 

手術は成功し、糸川は希望を持って生きていくと健吾に約束する。
だから、健吾も過去は忘れて、前を向いて生きろと励ましてくれた。

はい。もうやめます。
事故が起きた原因わかってきましたから。

三恵さん…亡くなられた妊婦ですが、特殊な血液型だったんです。
輸血がいけなかったんです。

輸血の前に僕が注意していれば、あんな事には…。

 

健吾の話を聞いて、糸川は奇妙な事を思い出していた。

あの、急患が運ばれてきた日・・・。

師長は廊下の隅で、輸血バッグのラベルを……

あれがどういう事か、師長が何してんだか、さっぱりわからなかった。
でもな、素人の俺にも、血液型の表示を付け替えちゃいけない事ぐらいわかるぜ。

 

師長が…輸血バッグのラベルを…貼り替えた？

師長が、あらかじめボンベイ型の血液を用意していた。
それに病院にあった輸血用のＯ型プラスのラベルを貼り付けた。

でも、あの最後の輸血だけはボンベイ型じゃなかった…？

そうだとしたら…

 

健吾は看護師長の部屋に飛び込んで、全てぶちまけた。

優佳は冷静に言った。

 

それが あなたの知る全てですか？
全てあなたの推測 想像ですね？

いいえ、目撃者がいます。

あなたが血液バッグのラベルを貼り替えるのを見ていた人が。

私が、なぜ三恵さんを殺さなければならないのです？
三恵さんは、妹の子を産んでくれた大切でとてもいとおしい代理母です。
私が手にかけたと思いたい理由はなんですか？

それは解りません。

もうこれで終わりにしてください。

僕には解らないという事です！
そんな事で人を殺めてしまうなんて…。

そんな事？

子供が圭子さんの遺伝子を継いでいない事です。

「そんな事」ですか。あなたの真実って。

しかも！
敏雄さんの子ですらない。

健吾は叫び続けた。

こんな事で、人の命を奪うこの女が恐ろしかった。憎かった。

DNA鑑定の報告書です。
あの赤ちゃんは亡くなった有馬三恵さんとその恋人だった本間篤志さんとの子供です。
妹さんは知ってるんですか？
ご主人の日向さんは？
これを持って、妹さんに会いに行きます！

その時、優佳は初めて顔色を変えた。

必死に鑑定書を健吾から奪おうとした。

 

三恵さんは、あなた方が持ちかけた代理出産話を利用して
自分の子供を安全に産もうとした。

それに気づいたあなたは、その裏切りが許せず、医療過誤に見せかけて
三恵さんを殺した。そうだろ！

 

院長が呼んだ刑事が師長室に入ってきた。

健吾は、糸川の手術を無断で行った事で逮捕されたのだった。

 

刑事に両腕を抱えられて、無理やり連れ出されながら、健吾は必死に叫んだ。

 

まだ話が終わってないんだ！

春日井師長！

あなたは人の心がなくなってる！
あなたはもう、人間なんかじゃない！

あなたは…

怪物だ！

 

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ついに全ての真実に辿り着いた健吾・・・。

刑事でもないのに、医学の力で検証して、ここまで調べ上げたのは
大したものだと誉めてあげたいけど……

当然、完全に追い出されてしまった。

この先、彼が「白衣を着て戻る」事が出来るかどうか…。

 

健吾の気持ちはよく解る。
「そんな事」で、人の命を奪っていいはずがない。

でも普通の人は、色々と不満や不審な事を感じても、それを暴く事と立場や出世やお金や…
そういう事を天秤にかけて、黙ってしまうもんなんだよね。

全てを知る事は、人を幸福にはしない。

 

しかし、思っていたよりも、みんな「良い人」だった。

平井瑶子は、あんなに患者から金巻き上げてたのに良心の塊みたいだし、
三恵の彼氏である本間さんも全くクセモノじゃないし。

水原先生も思ってた通りのただのツンデレな良い人だし、
糸川さんも、真実を教えてくれちゃった…。

そして、今後は何かあればこの人たちが証人になってしまうわけで。

こんなに証拠を健吾にいっぱい握られちゃって…
そんな健吾を警察に連れて行かせちゃって…

いいの？
かえって、優佳自身の身が危険になったような。

 

健吾は優佳を「怪物」だと言うが、優佳の望みは、ただ妹・圭子に
幸せになってもらいたいという事だけで、他には何の野心もないんだよね。

むしろ…

代理母出産の話をした時の圭子や…
ゆすりに来た男さえ脅す敏雄や…
そんな夫婦をやっと「日向家の跡取り」として認めた敏雄の母や…

欲まみれ、願望まみれの日向家の方が、よほど「怪物」だと思うんだけどな。

 

来週、ついに最終回。

 

 

　　
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※キャスト

司馬健吾 … 岡田将生
春日井優佳 … 中谷美紀
日向圭子 … 加藤あい
日向敏雄 … 長谷川博己

平井瑶子 … 大政絢
有馬三恵 … 鈴木杏
森宮希実代 … 森脇英理子
竹内悠 … 南圭介
佐藤久美 … 富永沙織
「　　」… 長谷川朝晴

糸川要次郎 … 渡辺いっけい
水原良二 … 勝村政信
司馬宗吾 … 平田満
大久保志郎 … 小日向文世

本間篤志 … 田中哲司

日向華江 … 山本陽子

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・「まぁ、お茶でも」さん
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