求められるのは体だけなのに、どうして気持ちなんてものがあるんだろう。
もう要らない。
私はもう、心なんて要らない。
もう誰も好きにも嫌いにもならない。
笑いも怒りもしない。
何も感じない。
私は
天使になるのだ。
わたしを離さないで 第6話
先々週も先週も感想が上がらないまま1~2週間経ってしまったので補足しておくと…
くっついたり離れたり、住民がフリーセックスな生活をしているコテージの暮らしに嫌気がさした恭子は人を拒否する生活を続け、美和はそれを上から眺めていた。
けれども、コテージというのは移動することが出来るらしく、真実からの誘いで出ていく恭子に美和は激しい焦りを感じる。
結局、見れば見るほど、美和という女は恭子が好きなのだな、と思う。
恐らく美和が愛しているのはトモよりも恭子の方なのだろう。
しかし、その気持ちを素直にぶつける事が出来ないのだ。
歪んだ世界で生きているから…
とも言えるし「こういう人いるいる」…とも言える。
真実が暮らすマンションは知的で自由で秩序が保たれていて魅力的だった。
そこで、恭子は真実に誘われて決起集会に出席する。
つまりここでは、自分たちに人権を…という考えが芽生えているという事。
思考を持って普通に暮らし、テレビなどの外的情報源まで与えられているのだから当然だ。
この世界は、どうしてこんな危うい道を歩んでいるのだろう、と本当に疑問に思うもの。
外の世界の「人間」が欲しているのは「臓器」のはずだ。
「臓器」には言葉も教育も思想も必要ないはずで、これを言ったらドラマが終わるけれども、物言わぬ臓器だけを細胞から作り出せばこんな気まずいことにならなくて済むんじゃないのかな、と。
人間の形をしていて、考えて、喋るから、こんな事になる。
コピーたちには「自分は人間だ」という自覚がある。
だから人権を欲しているのである。作られた身なのに。
前の記事にも『サウルの息子』の事を書いたけれども、絶滅収容所で働かされるユダヤ人のゾンダーコマンドと同じような立場に見えてしまう彼ら。
根本はかなり違うんだけれどもね。
ユダヤ人は生まれた時から「人間」であり、あんな風に扱われてはならないものだった。
このドラマの彼らは、たぶん「人間」ではないのだ。
そもそも人権を欲するような面倒くさいことになるなら、彼らは産まれてくることすらも無いだろう。
恭子は集会に出て、そして自分が欲するものはこれじゃないと思い、コテージへ帰る。
このまま死んでしまうならば、と、恭子が欲した物は「人権」ではなくて「愛」だった。
恭子は浩介に抱かれ、抱かれる事で自分の存在を感じる事が出来ると理解する。
そして、「提供」が始まって孤独で壊れそうな美和を抱きしめる。
抱きしめることで自分の存在を保てるから。
そうやってコテージで暮らすことを恭子がようやく受け入れた頃、パートナーだった浩介がついに「介護人」になるためにコテージを出て行ってしまう。
また1人ぼっちになってしまった恭子は、トモと一緒に「失くした物が戻って来る」のぞみが崎へ行ったことにより、想いが再燃。
気持を告白してしまった恭子とトモ、2人の間に気づいた美和との三角関係がメインになった今回。
トモが何も言ってこないのは、きっと無かったことにしてしまいたいからだ。
そもそも トモは美和のものだ。
人のものを奪ってはいけない。
そんなことは、してはいけな……
恭子は一生懸命自制しようとするが、そもそも恭子はトモが好きで、美和はそれを知って割って入って来たのだからいいじゃないか、と思うのだ。
美和はどうせトモなど好きではない。
すべては恭子を意識してやっている事なのだから。
恭子はそのことに、ほとんど気づいていないらしい。
だから、真実に指摘される。
だって、あの子、トモのことなんて全然好きじゃないじゃない。
トモとつきあったのは恭子へのあてつけでしょ?
トモは恭子の好きな人だったから取り上げただけでしょ?
だって、恭子に勝ってることがあの子の全てなんだから。
真実愛し合っているカップルは、それを証明できれば「提供」までに「猶予」が貰えるという噂。
恭子は考え始めている。
トモと。
「すべての国民は個人として尊重される」
「生命、自由、及び幸福、追求に対する国民の権利については公共の福祉に反しない限り、立法、その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」
何これ?
憲法第13条。
誰にだって幸せを追求する権利があるのよ。
公共の福祉に反しないかぎり。
美和は公共の福祉?
ありがとう。
恭子、幸せになってね。せっかく生まれてきたんだから。
何か生まれてきてよかったってことを見つけて。
このために生まれてきたんだってこと。
「運動」団体は今や壊滅していた。
逃亡しようという計画は実現せず、仲間たちは捕えられた。
こうして捕えられた「提供者」は「即時解体」されるという。
つまり、彼らはお肉やマグロと一緒。
真実が恭子に聞かせてあげた憲法は人間のもので、彼らには適用されない。
だから学苑にはそんなことを教える「社会」の授業は無い。
政治家の街頭演説。
「人間というのは、ただ腹が満たされればいいというわけではありません。
それでは家畜と変わりません。
人間は精神、その心も満たされなければなりません。
長引く就職氷河期は若者から未来への希望を奪いました。
彼らは頑張っても頑張っても報われない。
そんな彼らが引きこもり希望を失うのは当然の…」
これには、少し驚いた。
普通のこの世界と同じじゃないか。
就職氷河期らしい。
若者は引きこもりらしい。
経済的に発展しているわけでも科学力があるわけでもないように見える。
街の風景はこの21世紀の日本と同じだし、着ているものも同じだし…未来感は皆無。
そんな中で、臓器移植用のクローンを作ろうなどという科学力だけは発達しているらしい。
ものすごく不思議な世界だ。
こんな社会だから、人間は「何か」を排除したくてわざと「提供者」を作ったのだろうかと思えてくる。
本来ならば、臓器だけが目的ならば何も考えさせなければいいし、何の知識も与えなければいい。
まず、言葉を教えてしまうことが間違えの元だ。
真っ白い無機質な部屋でエサだけ与えて育てればいい。
反抗もせず意志も持たず何の疑問もストレスもない「いい臓器」がきっと採れることだろう。
なのに、人間は彼らをわざわざ人間のように育てた上で隔離し、恐らくは蔑んでいる。
交流を持つ事もせずに自分たちが必要な臓器だけ提供させて処分する。
「優越感」がほしいから。
人間は自分よりも格下のものを蔑んで生きる事で自分の存在を感じて生きる動物だから。
つまり、美和もその縮図のひとつなのだ。
なぜ意志を与えたのかという疑問は当然、「提供者」に芽生える。
ここに疑問を持たない方がおかしいと思うのだが、彼らの大半が社会に関心が向かないように上手く育てられている。
一部の…憲法を知ってしまったような提供者だけが、おとなしく死んでいく事に疑問を持つ事になる。
街頭演説する男を脅してマイクを手にする真実。
「お前達は天使なのだ」と。そう教えられました。
だから、私は想像してみました。
大好きな友人に命をあげることを。
彼女が苦しんでいてその代わりに私の心臓をあげることができるだろうか。
私には無理だと思いました。
たとえその子のためにでも、私は私の命をあげるのはできない。
代わりに死ぬことなんてできない。
私は天使などではない、と思いました。
では何だろう。
天使でなければ何なのか。
私は自分は普通の、ごく普通の人間というものではないだろうかと思うに至りました。
私の望みはごく普通のことです。
例えば自由に歩き回ってみたい。
例えば仕事というものをしてみたい。
理想の将来について語り合いたい。
子供をもちたい。
好きな人と一緒に生きていきたい。
でも許されないんです。そんな些細なことが…。
なぜですか?
簡単です。
私達は家畜だからです。
私だって牛や豚が何を考えてるかなんて考えません、気にもしません。
これは恐らくそういうことなのだと思います。
でも…でも、もし、それでも私達のような存在を造り続けなければならないのなら…
どうか…どうか。
何も考えないようにつくってください。
自分の命は自分のものではないかなどと思いもしないように……。
私がタラタラと書いてきたようなことは、真実が、「提供者」自身が考えていた。
何も考えないように作れと。
当然、そう思うでしょ。
真実の叫びを聞く人々は、一体、自分たちと同じ姿をしたこの「提供者」をどう思っているのか。
みんなボーっと聞いていたけれども。
「天使」とは何なのか。
その答えは恭子が出した。
トモと一緒に「猶予」を勝ち取る計画は、美和によって崩された。
こんなフリーセックスのコテージで「誰とでも寝る女」なんて噂に動揺するトモも変。
そんな事が今さら非常識みたいに語られるこの世界も変。
「猶予」が掛かるとなると、パートナーはもはやフリーな物ではならなくなる。
自分を置いて2人で出て行こうとしたのだから、美和の怒りと焦りもよく解る。
自業自得なんだけどね。
私を振るのはいいわよ!
気持ちが変わるのは仕方がないって。
でも、猶予を願うなら話は違うじゃない。
私だってウソだって思ったわよ。
何回も何回も冗談ですよねってあぐりさんに聞いたわよ。
でも名前まで出てきて…そんな人が本当に愛し合うとか絶対に通らないじゃない!
トモがあんな苦手だった絵まで描いて努力が無駄になるなんて可哀想だなって…
そんなの見てられないじゃない!
愛しても居ないのにここまでトモを翻弄して来たのは自分だし、「猶予」が欲しいのも自分だし、1人になりたくないのも自分だし…だらだら涙こぼして変な女…そして本当にイヤな女。
美和の叫びをそう思いながら見る。
恭子のアップにスライドすると…
これがまた、もう。
悲しみや焦りでは無く、完全に哀れみの表情で美和を見つめている。
恭子は美和とトモを、そしてこのコテージを捨てた。
私はもう、心なんて要らない。
もう誰も好きにも嫌いにもならない。
笑いも怒りもしない。
何も感じない。
私は
天使になるのだ。
「天使」とは何なのか。
心を失くし、ただ「提供」することに喜びを感じる存在になる事。
必死で追いかける美和が哀れだった。
全て自業自得だけれどもね。
嫌がらせして傷つけて蔑んで自由を奪って。
それでも思い通りになると思ったら、それは大間違いでしょう。
自分もどうせいつ死ぬか解らず、その命が全て「人間」によって奪われると解っていたら、確かに美和のように好き勝手に我がまま放題に生きてみるのもいいかも知れない。
恭子のように我慢して奪われて支配されて生きるなんて、そんなのちっとも楽しくない。
けれども、孤独は変わらない。
女王様である美和も本当の友情も愛も掴めず孤独。
何もかも奪われて掴めない恭子も孤独。
やっぱり、この箱庭生活は全ての人間関係の縮図。
もしかしたら、精神鑑定の実験のためにも彼らを使っているのかな…
そう思えてしまうほど。
残酷だね。
のぞみが崎からの帰りの車、触れ合う恭子(綾瀬はるか)と友彦(三浦春馬)の手。
バックミラーに映るその光景を目撃するあぐり(白羽ゆり)、寝ている美和(水川あさみ)・・・
「愛し合っている二人には3年間の提供猶予が与えられる」という噂が、とんでもない事態を巻き起こす。
そして、運命に逆らう友に襲いかかる非情な終末
「恭子、幸せになってね・・・」物語はいよいよ最終章に突入する。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
※キャスト
保科恭子 … 綾瀬はるか(子役期:鈴木梨央)
土井友彦 … 三浦春馬(子役期:中川翼)
酒井美和 … 水川あさみ(子役期:瑞城さくら)
珠世 – 馬場園梓(子役期:本間日陽和)
真実 … 中井ノエミ(子役期:エマ・バーンズ)
金井あぐり … 白羽ゆり
譲二 … 阿部進之介
信 … 川村陽介
桃 … 松岡恵望子
立花浩介 … 井上芳雄
峰岸 … 梶原善
花 … 大西礼芳(子役期:濱田ここね)
広樹 … 小林喜日
聖人 … 石川樹
マダム … 真飛聖
克枝… 山野海
堀江龍子 … 伊藤歩
山崎次郎 … 甲本雅裕
神川恵美子 … 麻生祐未
※スタッフ
脚本 … 森下佳子
演出 … 吉田健、山本剛義、平川雄一朗
プロデューサー … 渡瀬暁彦、飯田和孝
音楽 … やまだ豊
原作 … カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
公式サイト http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/
わたしを離さないで [ カズオ・イシグロ ] |
わたしを離さないで [ キャリー・マリガン ] |
コメント
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>一般の人たちはめったに提供者たちに会うことはないけれど
世のなかにはそういうかわいそうな人たちがいると思うことで、自分はまだマシとか考え世のなかの平穏が保たれているのかもね。
そう。他人の不幸を自分が幸福感を得るための糧にして生きる勝手な動物だからね~。
まさに人の不幸は蜜ってやつだよね。
「提供者」はどうせ人工的に作られた物だから「人間ではないのたから何をしてもいいのです」と教えられているのかも知れない。
>この苦しみはなんのためにあるのか、恭子がその答えを見つけた時に初めて生きている喜びを感じることができるのかも・・・
その問いの答えは「赦し」とかない気がする。そう考えるととても宗教的だよね。右の頬を叩かれても赦して左を差し出せっていうような話だよね。
>見てて充実感も楽しさも全く感じないけど
見ずにはいられないドラマだよね。
そうなの。スタッフ被りだから当たり前といえばそうだけど、「白夜行」のような答えのないやるせなさを感じるわ~。
救いのある結末になるんだろうか。
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>恭子がたちさる時の表情も、もうなんといっていいかわかりませんでした。
恭子はもう感情を殺しているようでしたよね。
美和はひたすら哀れでした。自業自得なんだけど…。
>第1回目のグレーがかった映像の美しさに惹かれて観はじめましたが 考えるとそれは強制収容所のようでもありました。
初回からどうもホロコーストを連想しちゃって。
原作は未読なので作者の意図するところは私には解りませんが、ドラマを見ている限りは「人間を家畜のように感情のないものとして扱う事」がテーマな気がします。ホロコーストしかり、虐待、虐殺、そこら辺の小さな虐めも含めて。
食肉、家畜、動物虐待に関してまではこの作品に関連して思いを馳せなくてもいい気がしています。
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>なのに、人間は彼らをわざわざ人間のように育てた上で隔離し、恐らくは蔑んでいる。
交流を持つ事もせずに自分たちが必要な臓器だけ提供させて処分する。
本当にね。提供者たちを教育なんて受けさせず、ただ隔離して家畜のように育てている方が楽だと思うが・・
ドラマの社会は今と同じように国民は大きな不安を抱えて生きているようだからくうさんが書かれているように優越感を得るために人間のような生活をさせているのかもしれない。
一般の人たちはめったに提供者たちに会うことはないけれど
世のなかにはそういうかわいそうな人たちがいると思うことで、自分はまだマシとか考え世のなかの平穏が保たれているのかもね。
提供者たちに感情やこころが無ければどんなに楽か。
この苦しみはなんのためにあるのか、恭子がその答えを見つけた時に初めて生きている喜びを感じることができるのかも・・・
『天使』とは与えるだけの存在。
自分たちは何も与えられなくても笑顔で与え続ける・・・
恭子のようにこころの動きを止めてしまわなければ
できることではないよね。自ら望んでロボットになる。
見てて充実感も楽しさも全く感じないけど
見ずにはいられないドラマだよね。
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真実の叫びがただただ悲しかったです。
恭子がたちさる時の表情も、もうなんといっていいかわかりませんでした。
やりきれなさが残りました。
第1回目のグレーがかった映像の美しさに惹かれて観はじめましたが
考えるとそれは強制収容所のようでもありました。
生きながらえるために他の生き物の命を頂くという点では私も同じだと思ったりして…。
わたしを離さないで 第6話
2016.2.19 onair. #6「第2章完結!!求めた愛と希望の行末は…永遠の別れ」 思わず友彦(三浦春馬)に好きだと言ってしまった恭子(綾瀬はるか)。やってしまったと頭を抱える恭子だったが、美和(水川あさみ)の知らないところで友彦と秘密を共有することに内心では興…
わたしを離さないで #06
『第2章完結!!求めた愛と希望の行末は…永遠の別れ』
わたしを離さないで 第6話
第6話
JUGEMテーマ:エンターテイメント
わたしは天使になりたい(綾瀬はるか)
彼らはルーツと呼ばれる人々の細胞から作られたクローン人体である。 彼らは「提供者」と呼ばれ「国民」ではない。 この「国家」では「臓器提供クローン法」のようなものが制定され、「提供者」の存在は合法化されている。 その点以外は・・・基本的に「日本国」である。 ドラマ「白夜行」が原作を逸脱して遥かな高みに
わたしを離さないで (第6話・2016/2/19) 感想
TBSテレビ系・金曜ドラマ『わたしを離さないで』(公式)
第6話『第2章完結!!求めた愛と希望の行末は…永遠の別れ』の感想。
なお、原作:カズオ・イシグロ「わたしを離さないで 」は未読。マーク・ロマネク監督映画「わたしを離さないで(2010)」も未見。
恭子(綾瀬はるか)は珠世(馬場園梓)と偶然再会する。そして、最後に会った時に真実(中井ノエミ)が自分に…
わたしを離さないで「第2章完結!!求めた愛と希望の行末は…永遠の別れ」
実際は、ともあれ、恭子(綾瀬はるか)の告白により、急速に接近していく 恭子と友彦(三浦春馬)の心。
秘密を共有することにより、恭子の美和(水川あさみ)を見つめる眼差しも、また変わってきます。
「陽光出身者で、ある条件を満たせば提供が始まるまで3年間自由に過ごせる“猶予”を得ることが出来る」という龍子(伊藤歩)からの手紙の影響は大きく、智彦は、納屋で苦手だった絵を描き始めます。
…