私にとって、あの女といることは、ただそれだけですり切れていくことだ。
奪われたものを思い出し続けることになる。
こちらがそれに触れぬようにしていても、何のつもりか嫌がらせのように突きつけてくる。
過去を。
あの女に支配され続けた、みじめな私の
過去。
わたしを離さないで 第3話
「「介護人」は「提供者」の検診や体調管理、日常の掃除、洗濯から入浴の介助や下の世話までする。
「提供者」もこちらも日々すり切れていく仕事だ。」
その代り、「介護人」にはほんのわずかな期間の自由と「提供」への猶予が与えられる。
全ては陽光学苑出身であるがゆえの特権。
この世界に一体いかほどの「提供者」がおり、陽光へ入っていなかった「提供者」の日常や心情はどんなものなのか、それは知る由もない。
とにかく、「提供者」の世話は「提供者」がしているという事である。
提供される「人間」たちにとって、この感情を持った臓器たちの世話をする事は後ろめたすぎるからであろう。
一昨日見てきた『サウルの息子』というホロコースト題材映画を思い出す。
これは史実だが、ナチスは絶滅収容所で、ユダヤ人を騙してガス室に送り込む世話をし、事が終わったら遺体を運び出し、部屋を掃除し、また新たに送り込む……という作業をゾンダーコマンドというユダヤ人たち自身にやらせていた。
肉体的にも精神的にも削られていくこの作業をさせるために、ゾンダーコマンドには若干の自由や食料が与えられる。
しかし、彼らも永遠にお世話係で終わるわけではない。
同じ人間に作業させて情報が漏えいしたりする可能性を恐れ、定期的に交替させられる。
交替させられたゾンダーコマンドは当然処分されるのである。
もちろん、ナチスドイツにユダヤ人に対する後ろめたさなどほぼないので心情的には違うだろうが、似ていませんか?
いや、この世界でも実は後ろめたさなどないのかも知れない。
単に「提供」の世話なんか「提供者」自身にやらせとけ、というシステムなのかもしれない。
人間は麻痺したらそういう思考になっていく。
さて。
自分たちが何者だかもよく解っていない「提供者」たちは陽光を卒業する時期を迎えていた。
卒業すると彼らはは2、3人単位で「コテージ」や「マンション」という施設に移り住むことになり、自活した生活を始めるらしい。
それは先生いわく「 外の世界での暮らしに慣れるための生活」という事で、買い物の練習なども行われるわけだが、その「買い物」もお金では無くてマネーカードらしい。
つまり…
それって「外」じゃないんじゃない?
…という話である。
何も知らない純粋な子どもたちに「夢」や「希望」を与えてしまった龍子先生は、生徒が2人蒸発した事件以来、どっと老け込み、おかしくなってしまっていた。
以前のような問題行動はなくなったものの、ここのところ奇妙な行動が目につくようになって生徒達も薄気味悪く思ってるようです。
…本当なら あの2人も卒業するはずの年ですから…。
と、恵美子先生に報告する山崎先生。
そんな龍子先生がここで今だに雇われていることの方が不可思議なんだけど。
もっとも、これもナチスと同じ理論なのかもしれない。
要するに、一旦内部を知られてしまったからには簡単に開放は出来ないのである。
この世界では龍子先生は政府への不満分子…からの、狂った人…なのである。
学苑側としては狂ってくれているくらいの方が調度いいんだろうな。
その代り、教師として何の役にも立たないけれど。
何の役にも立たないどころか、先週の「無意味な希望を与えちゃう女」から「余計な真実を教えちゃう女」へと見事なKYっぷりを披露し続ける今週の龍子先生。
あなたは…サッカー選手にはなれません。
あなたが料理人になることもありえません。
あなた達は何者にもなれません。
あなた達には一生のうちに何度か提供する義務があるのではない。
提供して一生を終える提供者にしかなれないの!
なれないように管理されてるの!
提供ってのはね、生活の合間にできるようなことじゃないの。
提供して 回復して、提供して、繰り返し、早ければ10代ですっからかん!死ぬから!
だから夢なんか、夢なんか見たって無駄なの!
あなた達の未来は決められてるんだから。
天使とかウソよ。
あんた達は、ただの部品。
壊れたところを取り替えるためだけの道具だから。
家畜と一緒だから。
こいつも、こいつも、ただの偽善者だから!
あんた達を育てると膨大な補助金がもらえるから、そうやって食いものにしてるだけだから。
だからお願い!だまされないで!
家畜と同じ…とか、ついに言っちゃったよ……。
かくして、龍子先生は気が狂った人として連れて行かれちゃうのでした。
これはもう……
末路は消されるか一生監禁か、どっちかですよね……。
しかし、恵美子先生、補助金目当てだったとはね~~…。
もう少し慈悲や理想がある人たちなのだと思い込んでいたよ。
堀江先生は精神を病んでおられました。
放火しようとなさったりもしてらっしゃいました。
それも寮をです。
そのような方のおっしゃることに、どうか惑わされないでください。
と、説明する恵美子先生。
なぜここで本当の事を言わないのだろうか。
どうせ「提供」の運命が待っている命になぜ言葉を教えたり教育したりするのだろう。それって凄く無意味だし、人間のように扱うから憐みの心や嫌悪感や罪悪感が生まれるんじゃないか。いっそ、姿形も人間じゃなくてただの臓器にすればいいのに……と初めは思っていた。
けれども、この子たちを学苑で教育するという意味は今回何となく納得した。
「介護人」を作るための教育である。
介護もしなければならないし、初回を見る限り看護師的な事もするようだから、知識も実践も確かに必要だろう。
だったら、きちんと何のために育てているのか話さなければならない気がするんだけれども。
建前と綺麗ごとばかりで、ここの教育は不足だらけだ。
そんな風に育てるから、彼らの中に「普通の人間」と同じ感情が育ってしまう。
「外の世界の男」とつき合っているという妄想に近い見栄を作り上げる美和。
恭子を愛す故に嫉妬し、恭子の世界を取り上げて自分のものにすることで自己のテリトリーを守っている。
そのやり方がエゲつなくてイライラした。
あれ? 分かんないかな…。
私達、つきあうことにしたの。
もちろん、トモの事なんか何とも思っていなかった。
ただ恭子のものを欲しただけ。
この女を庇い、この女の言う通りに動いてしまう恭子のエセ正義感にもイライラした。
これで、
「私の世にもみじめな日々が始まったのだ」
と言われてもね……自分自身で選んだ道だし。
結局、自分からトモを奪った美和と同じコテージへ行くことになった恭子。
まあ、色々俺が悪いよ。
と、振り返るトモに、
でも分かるよ。
美和の圧力は凄いものがあったから。
と、珠世は言う。
確かに居るよね。有無を言わせぬ人間。
あらん限りの策略を持って、全部自分のものにしていく人間。
美和みたいな姑息な女も現実に居るし、恭子みたいに正義感イイ子ちゃんも現実に居る。
トモのような優柔不断で単純な男もいるし、真実のように達観した女もいる。
どんなに閉鎖された社会でも必ず縮図ができるというのは面白い。
現実世界の箱庭であるこの世界。
昨日は美和にイライラしながら見ていたけれども、限られた短い命なら自分勝手に生きた方が勝ち組ってことだよね。恭子のように人の事ばかり考えて助けてやってたって幸せになれる気がしない。
ああ、そうか…
けれども、この子たちを作った目的としては、恭子のような子どもができたら成功なのか。
何よりも他人を助ける事を優先し、他人に尽くす…。
1人1人の性格形成に意味があるのだとしたら、美和のような女はどんな役割を担っているのだろう。
この箱庭を覗いている世界は、どうなっているのだろう。
こうして…
私の世にもみじめな日々が始まったのだ。
あの女をうらやみ、憎み、許し…うらやみ、憎み、許し…。
その繰り返し。
同じところをグルグルと回されるような。
それなのになぜ、私はまた会いに行ってしまったんだろう。
のぞみが崎。
ここは海流の関係で、失くしたと思ったものがここに流れ着いていたっていう昔話があって…。
それが、あの引いていく潮と共に呼び戻される時間の渦か。
卒業を間近に迎えた恭子(綾瀬はるか)、友彦(三浦春馬)、美和(水川あさみ)は新たに住む先の選択に迫られていた。「恭子と一緒のところでいい」という友彦に、感情の動きを感じる恭子。
一方、サッカー選手の夢を持ち続ける友彦の前に変わり果てた龍子(伊藤歩)が現れる。
彼女の口から発せられたのは信じがたい事実だった。
そして、恭子と友彦の姿を常に見ていた美和は驚くべき行動に出る。それは・・・
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
※キャスト
保科恭子 … 綾瀬はるか(子役期:鈴木梨央)
土井友彦 … 三浦春馬(子役期:中川翼)
酒井美和 … 水川あさみ(子役期:瑞城さくら)
珠世 – 馬場園梓(子役期:本間日陽和)
真実 … 中井ノエミ(子役期:エマ・バーンズ)
花 … 大西礼芳(子役期:濱田ここね)
広樹 … 小林喜日
聖人 … 石川樹
マダム … 真飛聖
克枝… 山野海
堀江龍子 … 伊藤歩
山崎次郎 … 甲本雅裕
神川恵美子 … 麻生祐未
※スタッフ
脚本 … 森下佳子
演出 … 吉田健、山本剛義、平川雄一朗
プロデューサー … 渡瀬暁彦、飯田和孝
音楽 … やまだ豊
原作 … カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
公式サイト http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/
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コメント
わたしを離さないで 第3話
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わたしを離さないで 第3話
学校の生徒たちは、病気や怪我をした外の人間に身体の一部を提供する使命を背負っていました。
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コテージへは学校から2、3人単位で行けるので、生徒たちは誰と行くか頭を悩ませます。
ある日、サッカーをする友彦(三浦春馬)の元を、差し入れを持って訪ねた恭子は、コテー…
わたしを離さないで 第3話
第3話
JUGEMテーマ:エンターテイメント
わたしを離さないで「初恋の行方は…閉ざされた未来に見た儚い夢と希望」
陽光学苑を卒業する年になった恭子(綾瀬はるか)たち
学園時代の幼少期から縁がある友彦(三浦春馬)と彼女は密かに想い合ってますが、
美和(水川あさみ)が割り込んできて、「私達、つきあってるの」と、半ば強引に奪い去っていきます。
でも、一緒のコテージで暮らすという3人。一体、どうなる?
それにしても、「介護人」というシステムはハードでしたね。「提供者」になる前、その任務に…
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私はあなたを支配している(水川あさみ)私たちは世界に支配されている(綾瀬はるか)
「見てください・・・この牧場では自然と同じような放飼いが実現されています」 「暗い工場に押し込められた養殖ものとは違うわけですね」 「そうです・・・不健康なものを食べて健康になれると思いますか」 「やはり、健康なものを食べてこその栄養補給ですよね」 「みてください・・・この仔たちの生き生きとした表情
わたしを離さないで #03
『初恋の行方は…閉ざされた未来に見た儚い夢と希望』