僕は治療すべきだと思います。
でも、それは僕が医者だからです。
医者は最後まで治療の可能性に拘ります。
それが命を平等に扱う事だと考えます。
ですが、家族はたった一人の、大切なその人の事を思って決めればいいと思います。
正解も不正解もありません。
周りの事なんか考えなくていい。
お二人で決めてあげて下さい。
じゃないと、きっと後悔が残ります。
NHKドラマ10【透明なゆりかご】第10話「7日間の命」と総括
このドラマの集大成のような最終回だと思った。
「産院」という、本来ならば新しい命を迎えるべき喜ばしいはずの場所で。
なぜ最終回で「看取り」を描くのか。
命だった欠片
このドラマは、アオちゃんの「命だった欠片」を集めて渡す仕事から始まったから。
アウスによって生まれることが出来なかった「透明な命の欠片」を。
「ねえ、あなたはいつからあなたになるの?」
と、アオイは欠片たちに語りかける。
わずか7日間でも、灯里さんの赤ちゃんは、トモくんは、透明では無かった。名前もあった。
両親に抱きしめられて亡くなった。
見送るということ
由比先生は、夫婦に、
周りの事なんか考えなくていい。
お二人で決めてあげて下さい。
じゃないと、きっと後悔が残ります。
と言った。
けれども、それでも後悔はあるのだ。
私の母は、亡くなった父の末期の治療について、今でもいつまでも「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と言っている。
こんなの、自己満足よ。
トモヤは本当は一日でも長く生きたかったのかもしれない。
私は自分の希望をかなえたかっただけで、この子のためって言いながら逃げたのよ。
と嘆く灯里さんを見ながら、母を思い出していた。
止まってしまう心臓だと分っているのなら痛くて孤独な思いはさせず、由比産婦人科で親子の最期の時を過ごそうと決めたのは自分。
けれども、トモヤは本当は治療して一日でも長く生きるのが幸せだったかも知れない。
トモヤはどう思ってたんだろう。
そしてアオイは言うのだ。
相手の気持ちが分からないって苦しいですよね。
でも絶対 分かんないんですよね。
自分じゃない人の気持ちは。
だったら一生懸命考えるしかなくて。
それで 自分が出した答えを信じるしかない。
人の気持ちは分らない
母との関係が上手く行かず。
常に「自分が悪いのではないか」と考え。
「人の気持ちがよく分らない」ことに罪悪感を持っていたアオイが、
相手の気持ちが分からないって苦しいですよね。
でも絶対分かんないんですよね。
自分じゃない人の気持ちは。
という結論に行きつけるようになるためのストーリーでもあった。
そういう障害なのだから仕方ないのではなくて、誰だって人の気持ちなんて分らない。
それは悪ではない。
その代り、ちゃんとアオイは考えてきた。
悩んだからこそ考える。
そして、今は、患者さんに伝えることすら出来るのだ。
私は嬉しかったです。
母にギュッとしてもらえた時。
すごく。
子供がお母さんにしてもらいたい事なんて、それくらいなんじゃないでしょうか。
心がほどける
初回から登場して「常連の愉快な患者さん枠」だと思い込んでいた町田真知子さんが出産死するようなことになって。
由比先生に何の非もなくても、怒りのぶつけ所が無い陽介くんの気持ちはとてもよく理解できた。
明るい夫婦だっただけに、由比先生と陽介くんの顛末は悲しかった。
だから、陽介くんがこの病院を辻村夫妻に紹介してくれたという設定は本当に嬉しかった。
出産の結末がこうなることは分っていても。
最初から、この病院はきっと陽介くんにとっては、妻が死にゆく人も見守ってくれる病院だったのだろうから。
先生、俺には拓郎さんたちはすごく幸せそうに見えました。
親子3人で過ごせる日を1日も持てなかった陽介くん。
彼には彼の叶わなかった夢があり、辻村夫妻がそれをここで叶えてくれたことで解けた心。
でも、俺も美月と一緒にいられて幸せです。
由比先生。
頑張って下さいね。
はい。
ありがとう。
来てくれて。
医者をやっていれば、この先もきっと、「患者を死なせてしまった」思いをする日は来るだろう。
陽介くんの心がほどけたこと。
それは、この最終回の希望の1つ。
悲しみと希望
初回から、妊娠と出産、望む命と望まれない命、性に対する重さと責任、子育てと仕事……
ひいては、生と死について。
真剣に考える人たちを描いたドラマだった。
個人的には本来、出産に関わるドラマはお涙ちょうだいの闘病ものと同じくらい苦手で。
初めは「見なくてもいいかな」と思っていた。
けれども初回の結末を見て、ああ、そういうドラマではないのだとすぐに分った。
母性礼賛ではなく、お涙ちょうだいではなく、ヒロインがバリバリ前に出て患者を救う話でもなく、泣きながら説教を垂れる話でもない。
ただ、淡々と。
人の喜びや生を願い、見守り、手助けする人たちの話。
悲しいことがいっぱいあった。
けれども、そこにはいつも希望もあった。
何よりも、ここに由比先生がいて静かに見守ってくれている安心感。
妊婦と家族を第一に、真剣に考えてくれる看護師さんたちがいる安心感。
劇伴は優しく、入るべきところに静かに佇み、盛り上げるのではなく自然に流れる。
あれは命を見守る音楽だと思った。
このドラマの中で昇華していった魂はきっと幸せだ。
アオちゃんからきちんと「さようなら」してもらえた透明な命たち。
最終回のラストでは、アオちゃんは「こんにちは」を言う。
だから、どんな子にも言ってあげたい。
おめでとう。
よかったね。
なんて美しく繋がったラスト。
瀬戸康史という俳優
清原果耶さんが16歳とは思えないほどの落ち着きでドッシリ演技しているのは『あさが来た』の時からもう理解していて、初主演には何の不安も無かった。
失礼ながら、本当に改めて驚かされたのは瀬戸くんである。
もちろん演技力の高さは前々から分っていたし、何よりも本当に好きだし、いつも彼が出る作品は楽しみにしている。
けれども、病院を1つ持つ医師役としては童顔が不利な気がしていた。
そんな不安は初回から吹っ飛ばされました、ごめんなさい。
あの声よね。落ち着いて、浮ついたところのない、きちんと人の心に響く声。
あれはきちんとした病院長の声だった。
命を語るのに相応しい演技だった。
あれで甘えた演技も女装も出来るんだもんなぁ……。本当に凄い俳優だわ。
毎回の短レビュー
毎回こちらで書けなくて、短レビューは『みるはち』の方に入れております。
今期一番幸せと満足感を得た美しいドラマだった。
制作の方々には心から感謝いたします。
由比(瀬戸康史)は初産の妊婦・辻村灯里(鈴木杏)のおなかの胎児に、重い病気があると気づく。産まれても長生きするのは難しいと知った灯里と夫・拓郎(金井勇太)は中絶をも考えるが、榊(原田美枝子)や紗也子(水川あさみ)らが見守る中、産むことを決意する。
大学病院の協力も得て、誕生後の対応や積極的治療の準備が進められていく。
だがある日、灯里はアオイ(清原果耶)に、それまで秘めていた悩みを打ち明ける…。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
※キャスト
青田アオイ … 清原果耶(子役期:森山のえる)
由比朋寛 … 瀬戸康史
望月紗也子 … 水川あさみ
青田史香 … 酒井若菜
町田真知子 … マイコ
町田陽介 … 葉山奨之
川井郁美 … 野村麻純
山村 … 勝部祐子
野原 … 金子ゆい
和田塚誠 … 淵上泰史
岩坂教授 … 堀内正美
精神科医 … 岡部たかし
榊実江 … 原田美枝子
※スタッフ
脚本 … 安達奈緒子
制作統括 … 須崎岳、髙橋練
演出 … 柴田岳志、村橋直樹、鹿島悠
原作 … 沖田×華『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』
音楽 … 清水靖晃
主題歌 … Chara「せつないもの」
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コメント
紫花浜匙さん
私はこれの原作をまるきり知らないので、輝くようなセリフの数々が原作由来なのか脚本家さんの腕なのかよく分らなくて。
でも毎回のように泣かされていました。泣かせようとされている、のではなくて、自然と流れる涙。
>一人の時にしか観れないドラマでしたよ。悪い意味ではないです。
泣くしね〜。
わかる~~(笑)家族と見れない(笑)
>実年齢よりもぐっと上に見えてグレーテルの時の可愛さを演じてる人とは思えない落ち着きだった。
私もちょっと感動したわ。以前から上手いとは思っていたけれども、役で年齢を作れる人って本当に凄い役者さんよね!
どんどん良いドラマに出ていただきたいな。とりあえずは「まんぷく」が楽しみだ。
こんにちは。
漫画の立ち読みで数頁読んだ事があるくらいだったけど
とても気になる作品だったので
まさかNHKでドラマにしてくれるとは。
内容はとても重いのに 優しい気持ちで観れるドラマでした。
でも家族と一緒に観ることは出来なかった。
一人の時にしか観れないドラマでしたよ。悪い意味ではないです。
泣くしね〜。
普通に生まれてくる事が本当に奇跡なんだって思った。
どの話も凄かったな。台詞に自然な力があって。
役者も皆んな、子役から若い子からベテランまで文句のつけようが無くて。
瀬戸くん 本当に上手だった。ついこの前まで女装していたとは思えない。
実年齢よりもぐっと上に見えてグレーテルの時の可愛さを演じてる人とは思えない落ち着きだった。
こういう上質なドラマを又作ってほしいです。