【逃げる女】第5話「あなたしかいない」 感想

「寂しさとともに生きる」西脇梨江子

「あなたも『孤独』を『楽しみ』ととらえ、孤独の中に生まれる『淋しさ』を力に変えるのです。」
「淋しさを恐れず前に突き進む勇気を持ってください。」

「あなたから相手に心を開くことが大切なのです。」

 

逃げる女  第5話「あなたしかいない」

     NHKドラマ「逃げる女」

 

一つの事柄や人の話、その人自身も全て。
見る方向が違うとガラッと変わってしまうという事がある。

正義感は欺瞞に。
説教は理想論に。
不合理は孤独に。

 

あずみを待つ梨江子は、実家に久しぶりに帰ると言う千夏を見送って言う。

 

会いたいって言ってくれるお母さんがいるだけで幸せなんじゃないですか。

 

認知症になった梨江子の母は、もう会いたいとは言ってくれない。
素直にそう思ったから口から出た言葉。

しかし、千夏は家族関係が悪くて施設に預けられていた身である。

そんな母じゃないけど…。

 

そう。誰の母も全てが慈悲深くて子どもへの無償の愛に溢れているわけではない。

梨江子という女の家族環境は今だにハッキリ解らないけれども、事件以前の母は「会いたい」と言ってくれる母だったのだろうか。

そんな梨江子をジッと見ている美緒。
冒頭から差し挟まれる、優しく話し掛けながら幼い娘の髪を結う母の姿。
   逃げる女5

 

10年前、坂崎という中年の夫婦が強盗に殺され、帰宅して現場で犯人と鉢合わせた高校生の娘が行方不明になった。

犯人が殺害して遺体を隠したのだろうと思われていたその事件。
娘の指紋と美緒の指紋が一致した。

つまり…

10年前から行方不明になっている被害者の遺族が、今、ピストルを使った連続殺人の容疑者に近い位置にいる。

捜査していた安藤は、その娘は親から虐待を受けていたという事実に辿り着く。

 

そうだよ。
あの娘は笑ったんだよ。血まみれの親を見て笑ったんだよ!

 

と、怯えた目をして訴える強盗殺人犯。

 

俺、もう刑事って仕事が嫌になりました。
というか…人間が嫌になりました。

行方不明の娘はやっぱり生きてた。
「坂崎かおり」15歳。当時高校1年生です。

と、佐久間に報告する安藤。

 

隣の家の人間はなかなか話をしてくれなかったんですよ。
でも、話し出すと止まらなくなりましてね。

隣の夫婦は殺されて当然の人間だ。
事件が起きた時はすっとした

って言うんですよ。

掃除がちゃんとしてない。
それだけの理由で父親が子どもを木刀で叩いていた。

小学校になってオネショしたからって、布団で巻かれて庭の木に吊るしてるのを目撃したって言ってるんです。
もっとひどいのは…。

何をしたのか分からないけど、5歳の子どもですよ。
真冬に裸にして夫婦で水かけて遊んでたっていうんです。
さすがにその時は隣の人間も警察に通報したらしいんですよ。
子どもも保護施設に預けられた。

 

冒頭の優しい母と幼い娘の映像。
2人で鏡に映る。

笑顔だった母の顔が少し歪む。

視聴者が映像から受ける印象まで攪乱する。

 

千夏の店の留守番中、美緒は梨江子が作ったものを食べず、店のものを勝手に食い散らかし、部屋中にお菓子をぶちまけて暴れた。

 

いい年をして…
ささいな事、注意されるとすぐに怒って、人の嫌がる事ばっかりして、本当はさみしくて構ってほしくて素直に言えないからまた嫌がる事をして、その繰り返し。

そういう子、いっぱい見てきた。

施設の子どもを見てきた職業柄、梨江子は美緒の世話も何とかやれているのか…と、思っていた。

ワガママ放題に暴れる美緒にイライラした。

けれども、それも梨江子の見る方向から私たちも見ているから。

 

私は、やってもない事で8年間、刑務所に入ってたの。
8年間、自由に歩けなかったの。

あずみって女のせいで?

あずみだけじゃない。

佐久間って刑事のせいで?

刑事も検察も弁護士も、報道の連中も、みんなで寄ってたかって私から全て奪ってった。
さっき虫の声聞いてたら、失ったものがどんなに大きかったか改めて分かったの。

今の私にはあなたしかいないのよ。

 

突然キレて、梨江子を罵倒する美緒。

 

ふざけるなよ。

「今の私にはお前しかいない!」
そうやってぶっ叩かれてきたんだよ!
そうやって水ぶっかけられて生きてきたんだよ!

いろんなやつに!
世の中の全部に!

ぶっ叩かれて生きてきたの!私は!

 

人が嫌がる事で一番うれしい事教えてあげようか。

頭に拳銃突きつけたら一瞬おびえた顔になる。
それが一番の快感。

  逃げる女5-1

 

好き勝手に生きてきて我がままで寂しいから暴れているわけでは無かった。
頭がおかしいサイコパスだから血まみれの親を笑っているわけでは無かった。

傷つけられておかしくなったのだ。
傷つき返す事でしか空っぽの自分を埋められない。

感情を吐き出し、いつの間にか泣いている。
傷つける事で自分も傷ついている事すら気づいていない。

仲里依紗の演技が凄い。

 

自分の苦しみでいっぱいいっぱいな梨江子には美緒の苦しみは見えていなかった。
美緒は初めから感じ取っていたんだ。
梨江子の中にある埋まらない憎しみを。

 

自分の母親が優しくて息子想いだから、美緒の両親のような親が存在すること自体が信じられない安藤。

理解できない分、その存在への嫌悪感は凄い。

 

人は心に色んなルールを持って生きている。
優しい母親に育てられた安藤にはそれなりの親と子のルールがあるんだろうと思う。

時として、人間は相手が自分と同じルールで生きていると思い込んでしまう。
人はそれぞれ違うルールで生きているんだという事をつい忘れてしまう。

人を信じるというのは、相手が自分と同じルールで生きている事を期待する虚しい希望なのかもしれない。

 

佐久間はそう思う。

そう。
自分のルールで物事を見る事の危険性を訴えるドラマだったんだなと。
改めてそう思い知った回。

 

梨江子という女に対する冤罪の理由も今回初めて少しだけ解けた。

 

警察の発表をみんな信じてしまったんですよ。

東京の大学を優秀な成績で出た彼女が地元の児童施設に勤めた事が不思議だったんです。

施設には、園児同士で兄弟ペアを組ませるという独特の取り組みがあったんです。
彼女はそこに興味を持った。
その取り組みを追求して本にすれば文献でデータばかり集めている研究室の同僚たちに差がつけられる。

西脇は上昇志向の強い人間でした。

 

不倫していたとまで言われていた斎藤の口からこんな話が出るなんて。

今までずっと不思議だった、なぜ梨江子がわざわざ地元の田舎の施設に就職したのかがやっと解った。

今までの話の流れだったら、てっきり、東京で何かあって挫折して寂しくて田舎に帰ってきた…そんな風に梨江子のキャラを捉えてしまっていた。

そうじゃなかった。
突然、鼻持ちならない上昇志向の強い女の横顔が頭に浮かぶ。

 

そのころ、川瀬あずみの親は警察沙汰になるくらいのひどい夫婦ゲンカをしてましてね。
川瀬は苛立っていた。

大沢達也も親に預けられたりまた引き取られたり、その繰り返しで、もうどうしていいのか分からなくなっていた。
2人とも彼女を慕って縋るように生きてたんです。
西脇はそれが煩わしくなった。

彼女がもう少し川瀬あずみの寂しさにつきあってやっていたら、もう少し達也の寂しさにつきあってやっていたら、あんな事にはならなかった。

 

「寂しさ」を追求する本を書いて研究者として世に名を知らしめる。
それだけの目的でここに帰ってきた女に優しさも情も無かった。

なぜ、偽の証言をしたのか。
あずみにはあずみの気持ちがあった。

それは梨江子に対する嫉妬や、意地悪では無かったのだ。

 

斎藤は梨江子が書いた本を佐久間に渡す。
「寂しさとともに生きる」

 

それは寂しさについての立派な本です。
しかし、作者は身近な寂しさに気付いていない。
彼女の心には川瀬あずみにあったような、死んだ達也にあったような、寂しさがなかったんです。

彼女は今、初めて寂しさというものを肌で感じてるんじゃないでしょうか。

 

この施設の人間の
梨江子に対する冷たい態度の数々は…

こうなったのが必然だと思うほど梨江子の態度が鼻持ちならなかったからなのか…。

つまり、みんな梨江子に「寂しさ」を感じさせようと思ったのだ。願ったのだ。
その結果、誰も梨江子を庇う発言も証言もしなかった。

 

「寂しさ」を知らない代償が8年の刑期。

そんなに払わなければならないほどの性格の悪さって……。

もっとも、これは施設関係者側の言い分であって、真実どうだったかは解らない。
梨江子には、梨江子の言い分があるだろう。

けれども、家族である妹も

「お姉ちゃんは人を好きになるような人じゃないわ。
人から好かれる事はあっても自分から好きになる事なんかないわ。」

と言っている。

梨江子は家族からさえ「そう見られる女」だったのだ。

誰からも庇われず、こんなに辛い目に遭ってもイイ気味だ的に思われ、8年も時間を奪われたのに「過去は忘れて…」としか言ってもらえない…ここまで来ると、見ているこっちが同情するよ。

 

しかし、確かにドラマを見ている限りでも違和感はずっとあったんだものね。
この人は出所してから家族の事とか何も考えていなかったの
いったい、事件前、どんな家族だったの
どうして誰からも庇われないの

そういう事だったのか……

という事だけは解った。

 

けれども、どんな事情があろうが女盛りの8年を奪われるような冤罪はあってはならない事だし、美緒の親の虐待がどんなにヒドかろうが、それとこれとは一緒に語れない気がする。

ただ、傷つけられた女が2人…。

寂しさを埋めるために、自分が必要とされることで自分の存在を保つために…抱きしめる。
昨日の「わたしを離さないで」と同じ図をまた見ることになった。
  逃げる女5-2

 

あずみの遺体が上がった。

梨江子はずっと あずみを待っているのだから、まさか梨江子が突き落したなんてオチにはならないと思うけれども…恐らくは「おねえさん」のために美緒が撃ったのだろうけれども…。

どっちにしろ、偽の証言をした女は死んでしまったよ。

安藤目線では、もう西脇理恵子は犯人である。
だって、安藤にとって美緒は可哀想な虐待被害者だものね。

どういう結末に向かうのか全く想像つかない。

2人とも死んでしまって終わるような事にだけはなってほしくないな。
どんな女だろうが、失くした時間を取り戻す権利はあると思うんだ。

それは、生きていればこそだ。

 


梨江子(水野美紀)と美緒(仲里依紗)は、あずみ(田畑智子)と施設で一緒に育った千夏(黒沢あすか)のもとへ。
千夏が不在の間、留守番をする二人。
お互いぶつかりあう濃密な時間の中で、気持ちが近づいたのもつかの間、美緒は去ってしまう。
安藤(賀来賢人)は後の美緒らしき少女の陰惨な事件に行き当たる。
一方、発見された水死体はあずみでは、と半信半疑の佐久間(遠藤憲一)。
梨江子の過去を探り斉藤(高橋克典)を訪ねる。

(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)

 

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よろしければ→【2016年1月期・冬クールドラマ】ラインナップ一覧とキャスト表

 


※キャスト

西脇梨江子 … 水野美紀
谷口美緒 … 仲里依紗
佐久間学 … 遠藤憲一
安藤純也 … 賀来賢人
川瀬あずみ … 田畑智子
斉藤浩一 … 高橋克典
天野直将 … 加藤雅也
柏木健作 … でんでん
香村綾乃 … 原田美枝子
深見元 … 高橋努
西脇喬雄 … 古谷一行
松尾結花 … 水崎綾女
山口 … りりィ
季佐 … あめくみちこ
八重 … 安藤玉恵
小倉一郎
梅沢昌代
諏訪太朗

※スタッフ

脚本 … 鎌田敏夫
演出 … 黒崎博、中島由貴
プロデューサー … 中山和記
制作統括 … 内田ゆき、越智篤志
音楽 … 上野耕路

公式サイト http://www.nhk.or.jp/dodra/nigeru/

 

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コメント

  1. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    >でも、私は梨江子がそんなに悪い人には思えないんです。

    今までずっと梨江子目線で描かれてきて、どこも悪い感じがしませんでしたからね。
    今回初めて施設側目線から衝撃的な真実が出て来たわけで、信じられない気持ちは解ります。私もそうですから~^^;

    >あずみの死は 自殺はなしですか?

    「原型を留めない」形での発見らしいから、どうでしょう…。
    でも、これは私は美緒がやっちゃったなって…^^;

  2. Q より:

    SECRET: 1
    PASS: ab321be5ff2ec971f559706826139bd7
    メールありがとうございます♪ かえって気をつかわせてごめんなさい。でも気が向いたら、せひ。

    真田丸も記事も楽しく見てます。おもしろい!
    ただ、サスケに次いで 半蔵さんの配役にちょっとガッカリしてたんですよ。ある意味 わたしにとってアイドルなので…でも 家康さんとのやり取りが面白くって納得しました。才蔵さんも出るのかなあ、楽しみです。

    安藤がでるたび 榮倉ちゃんの「安藤」の声を思い出します。
    もうひとりのNのアリスも楽しくみてます。
    そしてそして dヒッツのCM、超うれしいですね!!窪田くんから「嵐独占配信中」が聞けるとは!!
    ドラマと関係ないけど くうさんに言いたかった・・・なのでこのコメはするーしてください。

  3. Q より:

    SECRET: 0
    PASS: ab321be5ff2ec971f559706826139bd7
    いろいろわかってきましたね。
    でも、私は梨江子がそんなに悪い人には思えないんです。あずみのことを ご主人の前では問い詰めなかった、ってその1点だけなんだけど。水野美紀さんだからってのもある^^;
    それも いいかっこしいとか どっか冷静とか 採りようによって変わっちゃうから 怖い話です。
    でも家族も周りもだからねぇ。まだまだ謎だらけですね。
    人を愛したことがない・・・これもこの年になって思うと難しいテーマだなあと思います。
    あずみの死は 自殺はなしですか?案外ダンナの線もあるかと・・・。人が言うほど あずみが幸せだったとは限らないんじゃないかと。(ふつうの感覚だと幸せでありっこないんだけど)

  4. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    >これであづみの口からは真相が語られなくなりました。

    そうですね。
    もう、あずみの心中というのは、想像の範疇でしかなくなってしまいました。
     
    >梨江子が施設で働いたのは研究のためデータ収集のためと言う話ショックでした。

    ですよねぇ…。
    私もずっと書いてきた、周りの反応が家族も含めて異常に冷たい件がハッキリ描かれましたね。

    けれども、これも施設側から見た梨江子の姿なので真実は解らないんですよね。

    そもそも真実って何?って話なのかもしれません。梨江子は人からそういう風に見られてしまいがちな損な人ってだけなのかも知れないし。難しいですね~。

    >美緒が怒り狂った場面、演技でしているようには見えず真に迫っていて里依紗ちゃんすごいです。

    このドラマって皆さん色々な顔を見せてくれていますよね。
    里依紗ちゃんの演技はもう凄いし、全くいつものオーラが消えた高橋克典も凄い(笑)

    >来週二人とも生きて人生をとりもどしてほしいです。

    ですよね。
    でも美緒の方は精神鑑定が通用しなければ極刑かも知れませんね…ちょっと、やりすぎてる…。

  5. ゆう より:

    SECRET: 0
    PASS: 67828959122547a7fddaab97d5e99e3c
    3日前に連絡があった、ここらへんは3日くらいで流れ着く、ってことは連絡があった直後に、ですよね。
    これであづみの口からは真相が語られなくなりました。
     
    梨江子が施設で働いたのは研究のためデータ収集のためと言う話ショックでした。

    美緒の箸の持ち方指導のところ、よかれと思ってのことでしょうが
    教えてくれと望まれたわけではないのに、余計な自分の親の話までして。
    もしかしたらあづみにしていたオルガン指導も同じような流れがあったのかも。
    あれ、あづみが片手で弾けた弾けたー拍手からの梨江子両手で弾くあづみに笑顔なし、でしたよね。

    美緒が怒り狂った場面、演技でしているようには見えず真に迫っていて里依紗ちゃんすごいです。
    でも美緒はああやって怒りを表に出せているからよかったのかも。
    あづみは自分でも気づかない怒りをずっと内にためこんでいたのかもしれないなー。
    その怒りが証言台と言う最悪の場で出てしまったんかなー。
    まあ美緒は怒りを表に出せてよかったレベルを超えてますがそうさせたのは虐待親ですもんね。
    来週二人とも生きて人生をとりもどしてほしいです。

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