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【足尾から来た女】前編 感想

足尾から来た女

     
     『足尾から来た女』感想

 

明治初期から始まった日本で初めての公害事件といわれる「足尾鉱毒事件」を描いたドラマ。

足尾鉱山は栃木県日光市に位置した鉱山であり、現在は国の史跡とされている。
胴の採掘自体は江戸時代から行われており、通貨にも使われた。

鉱毒事件が発生したのは明治初期、栃木と群馬の渡良瀬川周辺。
鉱毒ガスによって山が枯れ、木を失った土壌が崩れ出し、それが汚染水となって渡良瀬川に流出、
明治10年代には鮎が大量死するようになり、この頃から住人はやっと銅山のせいで公害が起きた事を
認識し始めたらしい。

当然、川から田畑に水を引いていた周辺の稲は枯れ、生活できなくなった村は廃村となった。
政府は鉱毒の流出を防ぐために栃木県の谷中村に遊水地を作る事を決定する。
それに伴って谷中村の廃村が決定された。
生活を荒らされ反対運動が激しくなっていく中での強制廃村である。

 

主人公の新田サチは、この谷中村に住む女だ。
何もなければ一生を田畑を耕して暮らし、村から出る事なく、世情などには関心なく、
田畑と天気の心配だけして農家の女として平凡に生きていたはずの女である。

 

明治37年。
日本は大国ロシアと戦争しました。

1年以上苦しい戦いをし、ようやく勝つ事ができました。
これで日本はようやく西洋列強と肩を並べてやっていける。誰もがそう思い、
国中お祭り騒ぎでした。

でも、 私はちっともめでたい気分になれませんでした。
私の村は田んぼも畑も作物が育たず、根腐れし枯れ果てて、人間が住める場所では
なくなっていたからです。

公害が進んだ村で、育たぬ作物を見ながら途方に暮れるサチ。

村の出身者であり国会議員の田中正造は、鉱毒を止めて緑豊かな村を取り戻すべく運動していた。

ある日、サチは田中から東京へ行くように頼まれる。

 

わしの友人で福田英子という立派な女性が東京にいるんだが、家事を手伝ってくれる
若い人が谷中にいたら是非紹介してくれって頼まれてんだ。

サッちゃん、これから女子も勉強しなくちゃならん。
ちょうどいい機会だ。東京へ行っていろんな事学んでくるとよがんべ。

 

兄の信吉は、ずっと田中を尊敬し従ってきた。
村が団結しみんなで運動して行こうという空気の中、生活苦と公害に怯えて家を畳んで
逃げ出す住民も増えている。

サチは村を離れる気などなかった。

しかし、信吉が意外な事を言い出したのである。

 

おめ、腐った芋食ってあと何年生きられると思う?母ちゃんの二の舞になっぞ。
俺は決めたんだ。
父ちゃんを連れてこの村から出っぞ。

正造先生は、みんなで力を合わせれば足尾の銅山を閉山に追い込めるとおっしゃってる。
俺もそれを信じてここまでやってきた。
ふんだけどもう限界だ。

誰にも言うなよ。

県の偉え人が、じきじきに約束してくれたんだ。
村を捨てたら別の土地を用意してくれるって。
百姓をやんねえのなら県の土木課で働いてもいいって。
土木関係ならやってもいいかなって。
だから俺…。

 

信吉がそう決めたなら、サチもついて行くつもりであった。
しかし信吉は、サチは田中の頼みを引き受けて東京へ行けと言うのだ。

 

だって…。

いいから行ってくろよ。
県の人もそうしてほしいと言ってんだ。

何でもその人は県でも特殊な仕事をしてるらしくて、是非オメに頼みてえ事があるんだって。
半年でも行ってくれたら将来のオメの嫁入り先は責任持って面倒見てくれるって言って
くれてんだ。
えれえ親切な人なんだから。

 

こうして、サチはその「親切な人」の話を聞くことになる。

スパイ活動。

「親切な人」日下部は警察官僚だった。

田中は社会主義者ではないかと疑われており、サチが働くことになる福田英子も仲間の1人らしい。

 

社会主義者というのは我が国の伝統をないがしろにし、血も涙もない理屈で国家転覆を
謀ろうとする不満分子の事です。
恐ろしい連中で、近づくとすぐに他人を同じ色に染めてしまうといわれている。
今から行く福田英子の家はそういう社会主義者の巣窟です。

 

サチの任務は、福田英子の家の中でどういう事が話されているか報告すること。

字も読めず社会情勢も解らない女は、こうして巻き込まれていく。

 

福田英子を演じる鈴木保奈美が、いかにもインテリでシャキシャキした活動家に合っている。
情熱的で威厳があって弁論達者で快活で…。

2人の息子たちも本が好きで頭がいい。

本が読めると面白いわよ。
本を読むと世の中の事がよく分かるようになるの。
何が正しくて何が正しくないのかって。
そしたら自分に自信が持てるのよ。
強くなれるのよ。

あなたは自分の村を離れて一人で生きていかなきゃならない。
そのためには強くならなきゃならない。

しかし、サチは字を覚えることを拒否した。

「社会主義」という得体の知れないものに染められるのが恐かったから。
福田の家の事を警察に報告している身なのに、家の人たちと親しくなるのも気が引けたから。

それに…

村へ帰れば字なんか必要なくなる。
サチは必ず帰るつもりでいた。

 

しかし、福田の家でのみんなの会話や、本を楽しそうに読む子供たちの姿は
サチを刺激した。

「みにくいアヒルの子」が、どう変わるのか知りたくて、ちょっと本を見てみる。
福田が出版している「世界婦人」に掲載されている詩を読んでみる。

 

おはなーや…おはなはなめして…

日下部の部下は、サチのような女が字なんか覚えても無駄だとせせら笑う。

サチだって、まるっきり字が読めなくてもいいと思って生きてきたわけではない。

2年前、ロシアと戦争してる時、兄ちゃんが戦地から手紙を送ってきてくれて。
短い手紙だったけど…読めなくて…。
父ちゃんも母ちゃんも読めなくて…誰も読めなくて…手紙抱いて寝て…何て書いて
あるんだろうって。
せっかく戦地で書いてくれたのに…。

その時字が読めたらと思いました。
生まれて初めて字が読めたらって…。

 

東京へ出てきて、育った環境と全く違う世界を目の前にして。

変わりたい気持ちが芽生えつつも戸惑うサチ。

信頼していた田中の正体も解らない。

 

正月、福田の家に来た田中を送る。

我が村はどんどん人が減っていく。
残ったのは16軒。
16軒で闘わねばならない。

そんな田中に16軒で勝てるのか。
村は元通りに豊かな土地に戻るのかと詰め寄るサチ。

 

東京にいると谷中の事なんて誰も心配していないんです。
よその世界の事なんです。
ここには何十万という人がいて、たった16軒の村の事よりこっちがずっと大切なんです。

 

オメの兄ちゃんもそう言ってた。
1軒の家より100軒の家。
村より町。
町より都。
国はそう考えるってな。

それは違う。
100軒の家のために1軒の家を殺すのは野蛮国だ。
町のために村を潰すのも野蛮国だ。
サッちゃんなぜ 野蛮か分かるか?
都をつくったのは 町なんだ。
町をつくったのは 村なんだ。
100軒の家も1軒の家から始まったんだ。
その1軒を殺す都は己の首を絞めるようなものだ。
そんな事をする野蛮国は必ず滅びる!

オメはこの国が野蛮国だと思うか?
わしはそうは思わん。
だから闘う。16軒で!

 

警察が福田の家に踏み込み、石川三四郎など集まっていた仲間は次々と連れて行かれた。

自分の報告のせいかと、サチは福田の家を出て村へ戻る汽車へ乗る。

 

しかし、村は荒れ果て、すでに人が住む場所では無かった。

目の前で倒されるサチの家。
それは、兄の手で行われていた。

泣きながら責めるサチに、県の土木課の人間として仕方なかったと言う信吉。

 

鉱毒で苦しんでんのは谷中の人間だけじゃねえ。
渡良瀬川一帯の村が同じ目に遭ってんだ。
ここを池にして鉱毒をためればほかの村が助かんだ!

そんなの言い訳だよ!
銅山があっからこんな事になったんでしょ。
銅山なんか閉じればいいんだよ。
ため池なんか造るのやめて、銅山閉じれば済む事でしょ!

 

自分たちが生まれた家が無くなった…。
その事よりも鉱山を守る事の方が大切な兄が信じられなかった。

しかし、信吉は言うのだ。

 

俺も戦争に行くまではそう思ってた。

俺はな、ロシアとの戦争で二〇三高地を這いずり回った。
大勢の戦友がばたばた死んでいった。
でも、俺は生き残った。日本も勝った。

その時分かったんだ。
見でみろ。

 

兄に渡された鈍く光る弾。

鉄砲の弾だ。これで俺たちはロシアと戦ったんだ。
こいつのおかげで俺たちは勝ったんだ!
触ってみろ。

いいか?これは足尾銅山の銅で作られた弾だ。
俺たちが目の敵にしてる銅山で採れた銅なんだ。
こいつに俺たちは助けられたんだ。

悔しいけど、銅山がなきゃ鉄砲の弾は作れねえ。

 

必要悪…。
信吉が言いたいのはそういう事。

それが村を滅ぼすと解っているのに、それが無ければ国が守れないから村を潰す。
まだ、その弾を使う戦争そのものが国を滅ぼすと思っていないから。

それがあれば国は豊かになると信じている。
だから、そのための1つの村の犠牲はやむを得ない。

 

それは、現代でも通じる話。

1を犠牲にして100を助ける。
それは野蛮な国のやる事だと田中は言う。

だとしたら、人間は本質的に野蛮なんだ。
自分が良ければ多少の犠牲はどうでもいい、それが人間。

そんな考えと戦おうとする人がこの時代の中で生きている。

 

弁論の時代の活気と、反抗してもしても押さえつけられていくドロッとした怒りと、
無関係な人間の冷たさ…。

その中で、サチはただ翻弄される。

 

主人公以外はほぼ実在の人物。
暗く重い映像と慌ただしい時代の切取った演出。
臨場感浮き立たせるセット…。

素晴らしすぎる役者さんたちの演技の熱っぽさ。

ラストのオノマチさんの演技には、とにかく見入った。
演技でこんな風に叫べる、泣ける女優さんが他にいるだろうか。
劇中の人物がのり移っているとしか思えない。

映像の素晴らしさも、最近見たドラマの中で他に比べられる物がないほど。
「坂の上の雲」以来かなぁ…。NHKの本気は恐ろしい…。

歴史や時代物が苦手な方も、全く世情に知識のない主人公目線なので入りやすいと思う。
このドラマは、ホントに見なければもったいない…。

主人公がこの先、どう変わっていくのか、後編も楽しみ。

 

※今夜1月19日深夜24:15~25:30。前編の再放送があります!ぜひ。

 

・関連記事
【 足尾から来た女 】感想 前編  後編


明治末。足尾銅山の鉱毒に苦しむ谷中村の新田サチ(尾野真千子)は、田中正造(柄本明)の頼みで東京の支援者・福田英子(鈴木保奈美)の下で家政婦として働くことに。

そして、警察官僚・日下部(松重豊)が現れ、福田家の情報を警察に流すように指示される。

美貌の英子、元教育者の母・楳子(藤村志保)、年下の愛人で熱烈な社会主義者の石川三四郎(北村有起哉)など多様な人物が集まる福田家で、サチは働き始める。  


(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)

よろしければ→【2014年1月期・冬クールドラマ】ラインナップ一覧とキャスト表

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※キャスト

新田サチ … 尾野真千子

福田英子 … 鈴木保奈美
石川三四郎 … 北村有起哉
新田信吉 … 岡田義徳
新田良助 … 綾田俊樹
日下部錠太郎 … 松重豊
日下部の部下 … 尾上寛之 
幸徳秋水 … 河原健二
大杉栄 … 玉置玲央

石川啄木 … 渡辺大
与謝野晶子 … 原沙知絵

原敬 … 國村隼

影山楳子 … 藤村志保

田中正造 … 柄本明

 

※スタッフ

脚本 … 池端俊策
制作統括 … 高橋練
演出 … 田中正

音楽 … 千住明
      

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コメント

  1. 足尾から来た女 前編〜福島や沖縄を想起させる国家のために犠牲にされる個人や住民たち。

     <足尾銅山鉱毒事件>は<福島の原発事故>を想起させる。
     国策と企業のエゴ。
     被害に遭い、立ち退きを迫られる住民たち。

     いつの時代でも<小さなもの>は犠牲になるのだ。
     それはこんな田中正造(柄本明)の言葉に象徴される。
    「1軒の家より100軒の家。…

  2. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    >尾野真知子は作品によって輝きが大きく変わってしまう女優。とびぬけた時の輝きが素晴らしいが故に、サマーレスキューのような駄作では、残念ながらより一層みすぼらしくみえてしまいます。

    あれはドラマ自体がどうしようもなかったので~…。
    もったいないですよね。あんなのに使われちゃ…。

    >彼女は天才なので、もう無理に演技を付ける必要はありませんね。下手な演出家は、その輝きを消してしまう。逆に素直に彼女の力を引き出すと、周りもどんどん輝きます。満島ひかりもすごいけど、やっぱ本気の尾野真知子はダントツです。

    そうですね。天才と言うのが相応しい女優さんですね。
    「カーネーション」の時に毎日糸子に引きつけられて見てたのを
    思い出します。
    いいドラマの中では良い役者さんは輝きます。

    この「足尾銅山鉱毒事件」は公害事件の原点だと言われています。
    国内で初の公害だというだけではなく、発見の経緯、対応の遅さによる被害の拡大、
    被害者に対する政府の対応、後始末…
    そういう点は現代にも繋がります。
    もちろん、このドラマは沖縄問題や原発を含めて訴えている部分も大きいでしょう。
    だからこその今、このドラマなのでしょうね。

    >そんなテーマでドラマを作れる本気のNHK。受信料払っててよかったなぁと、この時ばかりは思います。

    まったくですわ~!
    あんな……な物も作るNHKって感じですが、こんなお仕事もして下さるならば
    払っていて良かったと思えます^^;

  3. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    ホント、そうですよね。
    見入っちゃいましたわ。
    ラストの方は本当にオノマチさんから目が離せませんでした。
    後編にも期待します^^

  4. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    コメントありがとうございます。
    本当に、久々に凄い物を見たって気がしますわ。
    ご報告ありがとうございました。
    よろしくお願い致します^^

  5. 隠れ常連 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    こんにちは
    尾野真知子は作品によって輝きが大きく変わってしまう女優。とびぬけた時の輝きが素晴らしいが故に、サマーレスキューのような駄作では、残念ながらより一層みすぼらしくみえてしまいます。
    昨晩はこのドラマを見れて幸せでした。カーネーションや緋の魚の時の、輝かしい彼女がいました。薄明りを通して本に見入る演技には、鳥肌が立ってしまいました。
    彼女は天才なので、もう無理に演技を付ける必要はありませんね。下手な演出家は、その輝きを消してしまう。逆に素直に彼女の力を引き出すと、周りもどんどん輝きます。満島ひかりもすごいけど、やっぱ本気の尾野真知子はダントツです。
    公害と国家というテーマですが、現在中国の大気汚染を見て「なんでコントロールできないの?」って、若い層は思うかもしれません。でも昔の日本も同じですね。私利私欲と国家の反映という大義名分のもとに、1部の犠牲者は抹殺されてしまう。あ、今の沖縄も福島も同じです。国民あっての国家なのですが、いつの間にか国家のための国民となってしまう。そんなテーマでドラマを作れる本気のNHK。受信料払っててよかったなぁと、この時ばかりは思います。
    皆様のNHKから安倍様のNHKに変わりつつあります。今後、このようなドラマは作れなくなるかもしれません。来週も心してみます。

  6. ゆう より:

    SECRET: 0
    PASS: 67828959122547a7fddaab97d5e99e3c
    すごかったです。
    「見入る」「乗り移っている」という表現がぴったりでした。

  7. SECRET: 0
    PASS: 261ad6bdb7ca6fc40dcf1a9c55bc1e7a
    はじめまして!
    ひさびさにNHKらしい見ごたえのあるドラマでした。
    勝手ながらこちらの感想記事を、私のブログに引用させていただきます。
    今後ともよろしくお願いします。

  8. NHK土曜ドラマ『足尾から来た女』(前編)

    内容
    明治末、谷中村の村民達は、作物が取れず、苦しんでいた。
    すべては上流の足尾銅山の鉱毒によるものと考えられていた。
    新田サチ(尾野真千子)もそのひとりで、父・良助(綾田俊樹)と
    畑を耕し続けるが。。。何も変わらなかった。
    そんななか、兄・信吉(岡田義徳…

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