助けたかった。
あんたをどうしても助けたかった!
俺があんたなら、例えどんな真実であっても知らずに死ぬのだけはごめんだ。
だからあんたに話さなきゃならない。
俺はあんたの生き方を汚してしまったよ。
あんたが必死に貫いてきた人生を汚してしまった。
3000人死ぬ。
いや、3000人どころじゃない。これからもっともっと多くの老人たちが死ぬ。
俺たちは利用されたんだ。
土曜ドラマ 破裂 第5話
この心臓が破裂する瞬間まで命を全うするわ。
と 弱々しく、しかし優し響く倉木の笑い声から始まるタイトルバック。
このドラマで、破裂するこの赤い塊を穏やかな気持ちで見たのは初めてだ。
いつも荒々しい鼓動と共に破裂していた赤い塊。
父と息子のわだかまりが溶けようとしている。
佐久間と厨の策略にハマり、香村療法の副作用研究は暗礁に乗り上げた。
香村はチェスに負けたのだ。
厨は言った。
あなたは研究者としては立派です。
でも、人としてへどが出るほど嫌いだった!
あなた、私たちの事人だと思ってませんよね。
私は医者として佐久間さんの考えに心から共感したんですよ。
特許結合タンパク質のプライマー配列必要なものは全て頂きました。
今後、厨療法を使って大規模治験を始めます。
「香村療法」は「厨療法」と名前を変えた。
それはもはや、香村が研究し続けてきた「心臓を若返らせる」ものではなかった。
ぴんぴんぽっくり(PPP)政策のための道具。
香村は必死になって倉木の心臓を手術してくれるゴッドハンドを探す。
それはもちろん、手術ミスに気づくこともできなかった自分ではあり得ない。
だが、一度死んだ心臓を若返らせたのである。
そんな恐ろしい手術は誰も請け負ってくれない。
中枢も「安楽死法案」へと動き始めた。
現在、オランダをはじめ欧米先進国各地で安楽死の合法化が進み、尊厳ある死の選択の自由が保障されています。
医療先進国にして長寿世界一の日本にこそ必要不可欠かと。
マキャベリ佐久間の口に敵う者はいない。
絶望の中で倉木に会いに行くと直輝が来ていた。
みんなでテーブルを囲む。
名乗りあえなかった父と子。
別居の道を歩む父と子。
和解を見守る女・彰子。
どうして俳優さんになろうと思ったんですか?
自分が国民的俳優の孫とも知らずに、直輝は無邪気に訊ねる。
目の前でな…数え切れないほど人が死んだんだ。
国が勝手におっ始めた戦争でな。
死んだ人間と生き残った俺の差は何だ?
手応えが欲しかったんだ。生きてるぞって手応えが。
それが芝居だった。
芝居なんて答えがなくて苦しいけどな。
似てる。この前にお父さんが言ってた事と。
自分がこれだと思った事に苦しむのは悪くないって。
苦しんだ時間は自分を裏切らないって。
直輝は父を真っ直ぐ見て笑うのだった。
血は繋がっている。
崖っぷちまで自分を追い込み、寿命を縮めても芝居に命かける倉木。
頭をクリアにするために睡眠を削ってもランニングをかかさず生卵で精を付けて研究に没頭する香村。
孫だと気付いていないって?
本当にそうなのかな。頭のいい子だ。
親への憎しみしかなかった父と、子を持つ喜びに浸れない祖父を繋ぐ鎹になっている。
とにかく。死んだ人たちに恥じない生き方をしたくてな。
祖父だとは名乗れないが、直輝との時間を作ってくれる香村に感謝する。
癒される。微笑ましい時間だ。
しかし、今や自分は「恥じない生き方」をしていると思えない香村は、父に告白するのだった。
自分はこの男と似ている。
だからこの男のように自分も恥じない生き方をしなくてはならない。
助けたかった。
あんたをどうしても助けたかった!
俺があんたなら、例えどんな真実であっても知らずに死ぬのだけはごめんだ。
だからあんたに話さなきゃならない。
俺はあんたの生き方を汚してしまったよ。
あんたが必死に貫いてきた人生を汚してしまった。
3000人死ぬ。
いや、3000人どころじゃない。これからもっともっと多くの老人たちが死ぬ。
俺たちは利用されたんだ。
どういう事だ?
あんたの奇跡の復活も悲願の映画を撮りきり死んでいく事も、全ては仕組まれた事だ。
すまない。
俺のせいだ。
治験としてではなく。
父として。
自らの名声と使命のために走り続ける同志として。
香村は心から「助けたかった」と言っただろう。
息子の悲痛な声を聞いて、父である倉木が立ち上がる。
私欲のために息子の道を阻む悪鬼に向かって。
あの日、蝉が煩く鳴き、太陽がギラギラ照っていた。
上野駅前のラジオには人だかり。
玉音放送だ。
あの日を境にして全てが一変した。
お前が背負ってるつもりの国なんて、明日には何もかも一変するかもしれないんだ!
おっしゃるとおりですね。
正しさなんて都合ですよ。その時々で変化する。
私は国家も国民も全く信じてなんかいませんよ。
じゃあ何を信じてるんだ!?
死を前にして初めて命の価値を知る。
倉木さん自身が体験したでしょう。
寝たきりから立ち上がり生の喜びを知った。
これから死を迎えるにあたってどうです?
夢の治療法を受けた事を感謝しているのではないですか?
お前に何が…!
倉木さん。
人、殺した事ありますか?
私はあります。
この手で父を殺しました。
※※※
倉木の戦争体験が「死」を恐れ憎む気持ちに繋がっているのだとは思っていたが、直輝との会話でやっと解った。
ああ、国が勝手に始めた戦争で多くの人が死んだ。
これと、これから国が勝手に始めるPPPで死んでいく老人は同じなんだ。
自分の意志とは無関係に国家の意志で、あるいはミスで命を失っていく国民。
子どもだろうが老いていようがもうすぐ死ぬ運命だろうが命は命だ。
個人のそれを勝手に突然奪うなんてことは悪魔の所業だよ。
もう人間ですらない。
思った通り、佐久間は親を安楽死させていたのだった。
けれども、まさか薬を注入するとかそこまでやるとはね…。
私は、呼吸器外したとか…そんな事だと思っていた。
いや、どっちにしろ犯罪でしょう。
この先、安楽死法案が成立したとしても、こんなやり方の安楽死は犯罪でしょ。
しかし政府ももうそんなことはどうでもいいのかな…
どうせ消える命。どう消そうがどうでもいいのかな。
一気に社会保障費を削減できるな。
そんな事を言えちゃう人たちである。
そりゃね…私も思っていた。
たしか初回のレビューには介護の大変さと死ねない老人について書いた気がする。
しかし、それは死に逝く人と介護者の問題であって、国が個人の寿命に介入するなんてことはあってはならないと思うんだ。
佐久間は、父は死ぬ前に感謝の涙を流したと言う。
感謝の涙かどうかは解らない。
息子に殺される恐怖の涙だったかも知れない、情けなくて泣いていたのかも知れない、悲しみの涙かも知れない。
証明したいんだろ?
父親を安楽死させた事が間違っていないと。
父親の涙が感謝の涙と思いたいんだろ!
それだと思う。
佐久間は自分が親にやった事を正当化したくて、今ここにいるのだ。
それだけのために国家を巻き込んでここまできた。
厨は佐久間に共感するはずだ。
自分自身に、死んでほしい要介護の親がいるのだから。
厨もまた、そうなったとしても自分を正当化する理由がほしい。
「厨療法」は佐久間と厨の親殺し正当化療法なのだ。
そんな狂った敵を前にして、老俳優はついに力尽きる。
北川が手術を引き受けてくれた直後のことだ。
動かない心臓。
香村鷹一郎は父を抱きしめて初めて呼びかける。
おやじ……。
文化勲章受章・本物の国民的俳優・仲代達矢さんの演技はもう当然として。
滝藤さんと桔平、それぞれの凄さよ。
自分を正当化したいだけの介護への私怨で「プロジェクト天寿」を進める悪魔。
悪魔の前にいるのは無名塾の師匠である。
息詰まる対峙シーン。
対して桔平の方は溶解を現した。
今までとは違い、今回父に対するシーンは全て父子の和解のためにある。
優しさと切なさ。
崖っぷちを生卵で走り続けてきた男が、てっぺんから転がり落ちて憎んできた父に支えられる図。そして、捨てようとしていた息子も自分を支えている。
倉木は死んだ。
けれども、その存在はたぶん来週も生きると思う。
だからこその国民的俳優。
国民的俳優が国家に殺されそうな老人の先頭に立って戦う。
そういう最終回が見られるといい。そう思っている。
※第5話の再放送は11月13日 金曜 24:10~。NHK地上波です。
香村(椎名桔平)の療法は完全に佐久間(滝藤賢一)に乗っ取られ、老人に突然死を
もたらす大規模治験に悪用される事となった。
更に佐久間は、官房副長官・伊達(嶋田久作)らを巻き込み安楽死法案法制化へと
動き出す。
そんななか香村は、心臓破裂が近づく倉木(仲代達矢)を手術で救おうとするが
解決策探しは難航。
自分たち父子が佐久間に利用された事をついに倉木に告白してしまう。
それを聞いた倉木は単身佐久間のもとに向かう。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
よろしければ→【2015年10月期・秋クールドラマ】ラインナップ一覧とキャスト表
※キャスト
香村鷹一郎 … 椎名桔平
佐久間和尚 … 滝藤賢一
倉木蓮太郎 … 仲代達矢
松野公子 … 坂井真紀
厨忠彦 … 甲本雅裕
伊達伸吾 … 嶋田久作
小池清 … モロ師岡
林田博史 … 佐戸井けん太
城貞彦 … 佐野史郎
須藤彰子 … キムラ緑子
香村朋美 … 黒沢あすか
香村直輝 … 里村洋
川邊久雄 … 鶴田忍
芹沢 直 … 水橋研二
滝沢啓治 … 松崎謙二
瀬田 昇 … 浅香航大
香村佐智子 … 中原果南
峰丘 枝利子 … 松浦唯
上川 珠季 … 市川実和子
北川 聖一 … 天宮良
※スタッフ
脚本 … 浜田秀哉
演出 … 本木一博、藤並英樹
制作統括 … 勝田夏子
音楽 … 蓜(はい)島邦明
原作 … 久坂部羊「破裂」
公式サイト http://www.nhk.or.jp/dodra/haretsu/
【楽天ブックスならいつでも送料無料】破裂(上) [ 久坂部羊 ] |
【楽天ブックスならいつでも送料無料】破裂(下) [ 久坂部羊 ] |
※「Twitter」やってますです。
フォロー下さる方は、ほぼドラマ実況ツイート(ツイ多いっす)だという覚悟でお願いします
【破裂】第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
コメント
SECRET: 0
PASS: ec6a6536ca304edf844d1d248a4f08dc
ところで仲代さん主演大河ドラマ「新平家物語」が
この第5話に1シーン映ったのはサービスですね。
「平清盛」48話で燃え尽きた清盛が
南都の寺を焼き討ちした息子に力なく「ようやった…」と
言いますが「新平家」では清盛自身が神輿に矢を射た時に
父親に力強く「ようやった!」と褒められていました。
改革の素晴らしさと、その反動の対照性を意識していたのでしょうね。
破裂 #05 簡単感想
公式サイト 香村(椎名桔平)の療法は完全に佐久間(滝藤賢一)に乗っ取られ、老人達
SECRET: 0
PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
こんにちは^^
毎週楽しみにしていましたが、いよいよ最終回ですねぇ。寂しいです。
「滝藤劇場」は予想以上の嫌らしさですよねぇ。
仲代さんとの師弟対決を堪能できました。
>今回は甲本さん、モロさん、仲代さんも凄かった。
甲本さんの後ろでお揃いのボトムスで退場する水橋さんもツボでした。
こういう甲本さんは暴力よりも恐いですよね。無表情で。
モロさんの砂糖シーンも笑えるほど恐かったです。
ほんと、演出、演技、全て引き込まれますわ。
最終回、楽しみましょう!
SECRET: 0
PASS: dcb5b4b9b6545a44f761e7edf711adcd
久々に書込みさせて戴きます。
もうずっと面白く観ています。
特に佐久間、もう「滝藤劇場」全開で椎名さんを
完全に喰っていますが、
今回は甲本さん、モロさん、仲代さんも凄かった。
甲本さんの後ろでお揃いのボトムスで退場する
水橋さんもツボでした。
モロさん怖いし、佐久間と対峙する仲代さんはさすがの威厳。
豪華俳優の実力を楽しめました。
破裂 TOP
2015年10月10日より、NHK「土曜ドラマ」枠(毎週土曜22:00~22:45)にて放送中。 原作 『破裂』(はれつ、RUPTURE)は、久坂部羊による小説。 現役の医師でもある作者の2作目の小説。 刊行された際に、帯に『医者は3人殺して一人前になる』などと書かれ、話題を呼んだ。…