分かりますか。柳岡さん。
あいつが大変な事になったって言うのは、俺に尻拭いさせたい時なんです。
あの日は携帯電話を家に置き忘れてしまい、対応できなかった。
でも、俺は忘れてよかったと思ってます。
何だったんですかねえ?
あいつが送ってきた
大変な事っていうのは。
ミステリースペシャル「満願」 第2夜【夜警】
私、こういう人を知っている。
と思いながら見ていた。
息を吐くように嘘を吐く。
「こんなはずじゃなかった。」
「うまくいくはずだったのに。」
その人も、いずれそんなことを言いながら死んでいくのかも知れない。
あいつが大変な事になったって言う時は大抵 ろくでもない時なんです。
高校時代はつきあっていた彼女に妊娠を告げられ、後で女の金欲しさの狂言だという事が分かりました。
2度目は大学受験の時。
入学金をパチンコですり、私が方々で金を借りて回り、なんとか 間に合わせました。
これは、大きな話で。もっと小さな尻拭いは、きっと兄の人生の中に何度もあったに違いない。
嘘が嘘だと分かった時。
こいつ、なんて馬鹿な嘘を吐くんだろう……
なぜこんな怪しい嘘に俺は気づかなかったのだろう。
と、あきれるやら虚しいやら腹立たしいやら情けないやらで、思わず笑ってしまう。
その度に、兄も柳岡のような顔をして笑ってしまっていたかも知れない。
私も。
その人間に騙されるたびに、あんな顔して笑っていたかもしれない。
市民を身を挺して守るために発砲し、刺されて殉職した若き警察官。
しかし、その兄は弟に正義感など無かったと笑い、その上司も部下にそんな勇気は無かったはずだと怪しむ。
工事作業員の「頭に何か当たった」話の時は、もしかしたら撃った?と思ったけれども、警察官が持っている拳銃の弾の数は管理されている。撃てばバレるよね、と思っていた。
田原美代子の浮気の話は、本当に川藤が相手してしまったのかも知れないと思っていた。
漠然とした不安を覚えながらも、話の行きつく先はハッキリとは見えなかった。
弱い市民への威丈高な口調。
だが、ちょっとした事件にも怯える臆病さ。
たかだかケンカくらいのことで、腰の拳銃に手が伸びる。
海外旅行では銃を撃った事だけが楽しい思い出だった。
一番なっちゃいけない人材が警察官になった。
しかし、教育係である柳岡は過去に後輩の教育に失敗しており、「育てる」ことは面倒で恐い事だと思っていた。
相棒である梶井も「あいつはダメだ」と愚痴る以上の事はしない。
異常な新人の奇怪な言動に深く踏み込む先輩はいなかった。
特に抵抗したわけでもない男を撃ち殺したのは、弾の数を誤魔化すため……。
そんなことのために人間は嘘を吐く。
ドロッとした演出と映像に、役者さんの表情の恐ろしさ。
吉沢悠さんのうらぶれた空気。
馬場ちゃんの無邪気な狂気。
安田顕さんの闇を抱えた顔。
兄の代わりに、今度はこの人がずっと背負っていくんだね。
尻拭いさせ続ける亡霊。
それが彼の「満願」なのか。
ホラーだ。
ラストの一夜は脚本も演出も熊切和嘉で。
これもまた楽しみ。
柳岡(安田顕)の若い部下・川藤(馬場徹)が刃傷(にんじょう)沙汰になった夫婦ゲンカに巻き込まれ殉職する。夫から身を呈して妻を守った川藤の行動は、世間から賞賛されたが、柳岡は違和感を覚えていた。川藤に自己犠牲の精神など無かった、と。
そういえば……あの日は朝からおかしな事が続いていた、事件当日交番近くの工事現場で不審な事故があったことを思い出す。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
※キャスト
柳岡潔 … 安田顕
川藤浩志 … 馬場徹
梶井学 … 村上新悟
川藤隆博 … 吉沢悠
田原 … 川瀬陽太
田原美代子 … 内田慈
※スタッフ
脚本 … 大石哲也
制作統括 … 出水有三、仲野尚之
演出 … 榊英雄
原作 … 米澤穂信『満願』
音楽 … 神前暁
満願 (新潮文庫) [ 米澤 穂信 ]
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コメント
Auさん
>ただ、この第2夜の演出は、上には「萩生田宏治」とありますが、榊英雄さんでしたね
本当だ!ありがとうございます。訂正させていただきました。
怖い役、クズい役、渋い役と上手くこなされる俳優さんですよね。ホラー監督としての才も見ました。素晴らしいです^^
3夜とも、自分だけでは消化しきれなかったので、すぐにレビューを載せていただいて、ありがたかったです。ただ、この第2夜の演出は、上には「萩生田宏治」とありますが、榊英雄さんでしたね。個性的な俳優さんもなさるかたですよね。
ほかのドラマも、くうさんのレビューがいつも一番腑に落ちます。お忙しいときもあると思いますが、どうぞ長く続けてください。お願いします。