一人の人生って悪くないわ。
誰にも迷惑かけずに自分で自分の時間が使える。
特に本というのは一人で生きる者の最高の友よ。
あなたがここに来たのには意味があったんだわ。
この声をきみに 第5話「キスはどうですか」
毎回感想書きたいと思いつつ書けずに5話まで来たので、「5話の感想」というよりも、ここまでの雑感で。
……というより、もう、ただただ作品に対する熱烈で気持ち悪いラブレターだと思ってください。
エンディングのJUJUを聞きながら、なぜか切なくて温かくて泣きそうになる。毎回。
EDでそういう気持ちになるドラマは、まず名作で間違いない。
大森美香脚本の作品は、昔フジテレビの山口雅俊Pタッグでやっていた頃は大好きで大好きで。
『カバチタレ!』『ランチの女王』『不機嫌なジーン』…みんな大好きだった。
どれも、EDを聞きながら泣きそうになるドラマだった。
「変わり者」を閉じこもった世界から解放し、温かく優しく描く大森作品。
久しぶりに、それに触れた気がする。
穂波 孝は大学数学科準教授。
専門の「結び目理論」に熱中し、輪っかと結び目の妄想に浸ることだけに幸せを見出し、結婚してもそれは変わらなかった。
『エジソンの母』の大杉漣さんを思い出す。
いつでもどこでもポアンカレ予想。
加賀美先生はそんなダンナさんに悩みつつも受け入れた。
しかし、孝の妻は受け入れなかった。
自分だけが家事と子育てに苦労し、夫が苦労を理解しないと出て行ったのだ。
正直、この妻には個人的には同情できず、このドラマを見るのに引っかかりになってはいたのだけど。
子供がこぼした牛乳をギャーギャー怒りながら拭く妻に、そんなに怒るなと窘める夫。
私自身も経験がある。
子供をキーキー怒っていたらダンナに注意された経験。
少なくとも、私はその時ハッとしたけど。
自分の怒り声が子供に与える影響について考えたけれど。
この妻は、そういう事よりも、まず夫を恨んだらしい。
たまにはあなたが叱ったら?
私ばっかり悪者にして楽しい?
きみのそういうヒステリーみたいなところ、もう少し何とかならないのか。
ヒステリー?
そうだよ。
だって母親があんな キーキー怒ってたら子供の精神上 いい訳ないだろう。
それが破綻の決め手になったらしい。
辛いのも悔しいのも解る。
妻の中にも子供たちにすまない気持ちはきっとある。
あるからこそ余計に夫が憎かった。
そういう事なのだとは思う。
「ヒステリー」は図星なんだよね。きっと。
だって追いつめられれば誰だってヒステリーになるでしょう。
だからこの人の気持ちも解らないではないけれども、子供がDVを受けているわけでもないのに父親と引き離して抱え込んで会わせないのは被害妄想が過ぎるだろう。
5話では、そういう妻の追いつめられた状態を思いやれなかった自分に充分自己嫌悪を感じた孝は、離婚を受け入れる。
別れた方がいいよ。
と、私は「孝のために」思うわけ。
だって専業主婦である奈緒が、「父親が子育てしない。私の気持ちを解ってくれない。」と言うのなら……
この妻は、喋りも上手くなく生徒に不人気な夫が社会でどんなに苦労して稼いでいるかという事を思いやったことなんてあったのか?と責めたくなるから。
孝は今や思いやりを持てる人となった。
「ちゃんとやったじゃん。」
と、奈緒にメッセージを送れる人となった。
奈緒の方はどうなのかしら。
実家に帰り、奈緒は安定して、子供に笑顔も向けられるようになったらしい。
それは、仕事に出るようになり、家事は母親に任せ、負担が減ったから。
彼女は今も恐らく一人で子どもを育てる覚悟はない。
こんな人だったのだから。
だから孝は何もトラウマを抱える必要はないんだ。
……と言ってあげたいの。
僕はなるべく家に帰りたくなかった。
この部屋にもう二度と家族が戻ってくる事はないという現実となるべく向かい合いたくなかった。
真っ暗な部屋。
うなだれて座る。
可哀想。
「不器用」は可哀想。
と、つい同情する。
朗読教室『灯火親(とうかしたしむ)』は、孝の心に灯火をくれた。
結び目にしか興味を持てず、結び目の世界しか愛せず、理屈でしか喋れない孝に「物語」の豊かさをくれた。
声には不思議な力がある。
人の声を聞く事、そして自分も声を出す事は、僕の気持ちを少し楽にした。
そこには佐久良先生が居て。
そして、京子先生が居る。
人生に色んな形で立ち向かっている人たちがいて。
彼らは孝に「人の気持ち」をくれた。
「くじらぐも」は、今や「科学的に有りえない妄想」ではなく、「豊かな想像の産物」に替わっている。
孝は学生たちとも話せるようになった。
物語が人間に与える世界の広さよ。
そして、孝は恋も知るのだ。
朗読劇とは、人の声が合わさるとは、心が合わさって空へ上る気持ちなのだろう。
『回転ドアは、順番に』を朗読する孝と京子先生のシーンの色っぽさ。
「くだものは なにが好きですか。」
「すいかが すきです。」
「なしは どうですか。」
「なしも すきです。」
「ももは どうですか。」
「ももも すきです。」
「キスは どうですか。」
「キスはくだものじゃありません。」
「ちがいますか。」
「はい。でも。」
「でも?」
「キスも すきです。」
麻生さんが美しくて艶めかしくて。
子供のように不器用で傷ついたおじさんを竹野内さんがそのまんま自然に演じていて。
「灯火親」の人たちが温かくて優しくて。
離れたくない世界だ。
このドラマを見終わった時、私の周りにもアレが飛んでいるワケ。
孝の幸せ妖精(笑)
人間は大人になったら変わる事も成長することも難しい。
ソレに出会えた孝を、少し羨ましく思うの。
ついに孝(竹野内豊)は、奈緒(ミムラ)との離婚を決意した。朗読教室もやめようとするが、クラスメイトの邦夫(杉本哲太)たちは必死に引き止める。一方、京子先生(麻生久美子)は理由も明かさないまま、教室を休み続けていた。
ある日、孝はナゾの車に連れ去られそうになる京子を偶然、見かける。孝は声をかけるものの、京子は何も説明しようとはしない。ただ孝に、朗読だけは嫌いにならないで欲しいと告げるのだった。
(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)
※キャスト
穂波 孝 – 竹野内豊
江崎京子 – 麻生久美子
佐久良 宗親 – 柴田恭兵
福島邦夫演 – 杉本哲太
磯崎泰代 – 片桐はいり
柏原 喜巳子 – 堀内敬子
稲葉実鈴 – 大原櫻子
河合雄一 – 戸塚祥太
熊川絵里 – 趣里
穂波奈緒 – ミムラ
穂波舞花 – 安藤美優
穂波龍太郎 – 加賀谷光輝
穂波定男 – 平泉成
八坂淳子 – 仁科亜季子
東原正規 – 松岡充
五島由紀夫 – 永瀬匡
山極春信 – 北見敏之
持田暁美 – 山本裕子
北里法子 – 千葉雅子
※スタッフ
脚本 … 大森美香
演出 … 笠浦友愛、樹下直美、上田明子
制作統括 … 磯智明
音楽 … fox capture plan
主題歌 … JUJU「いいわけ」
コメント
ケロヨンさん
>きっと自分も心にぽっかり穴があるのだろう
そうかも知れませんね。
私もそうなのだと思います。
ポッカリに響くドラマですね。
意外なところでこんにちわ。
このドラマとても良いです。凄く良い。
自分が好きになる要素ほとんど無いのに引き込まれる!
きっと自分も心にぽっかり穴があるのだろう。
かしこ。
この声をきみに 「キスはどうですか?」
孝(竹野内豊)は子供等への朗読の奮闘虚しく、奈緒(ミムラ)と離婚することになり、朗読教室も辞めようとしますが、みんなに引き止められます。主宰者の佐久良(柴田恭兵)は「その気にならない時は、それもいいよ」と好きな本を紹介してくれました。一方、京子(麻生久美子)は理由を明かさないまま、教室を休み続けていて、ある日、謎の車で連れ去られそうになるのを目撃。声を掛けるも、理由は教えてくれません。でも「朗読を嫌いにならないで」とそして、ある日、二人で本を読んでいて、ロマンチックなシーンに… (ストーリー…