『トットてれび』第5話 感想 向田邦子と昭和のテレビ 

向田邦子は昭和のテレビを代表する脚本家の1人である。
代表作は、『寺内貫太郎一家』『あ、うん』『阿修羅のごとく』など。
1980年、第83回直木賞を受賞。

1981年8月22日、遠東航空機墜落事故にて死去。51歳。

 

土曜ドラマ トットてれび  第5話

土曜ドラマ トットてれび 感想

 

私にとっての向田邦子作品は、昭和54年の『阿修羅のごとく』である。

まだ子どもだった私にとって、恐らく初めて触れる「大人のドラマ」だった。

「家族」「夫婦」「老いらくの恋」「不倫」「配偶者の喪失」など人生の快楽と厭世、嫌悪と希望を描きだしたこの作品の内容を当時の自分がどう受け止めていたのかは今ではよく解らない。

が、美しい四姉妹それぞれの事情と父と母の愛憎劇は、あのトルコ軍楽「ジェッディン・デデン」と共にジワジワと記憶に沁みこんだのだった。
土曜ドラマ トットてれび

4年ほど前にNHKが再放送を放映してくれて、その時に自分でも意外なくらいあらゆるシーンを覚えていた事に驚いた。

あの劇伴も。

人の記憶に残る作品を作れる作家は幸せだ。
その身体が失くなっても思いは永遠に伝わるのだから。

 

昭和のテレビを煌びやかでファンタスティックな映像と役者さんたちの達者な演技で再現してきたこのドラマは5話目にしてレギュラー登場人物の死を描いた。

元々、始まった時から視聴者は登場人物の多くが現在鬼籍の人である事を解っている。

最初から、もうこの世にない物を描いているのだもの。
毎週、目いっぱい楽しく見ながら、ふとした瞬間に泣けてしまうのは物すごくセンチメンタルな感情が湧きあがるからなのだと思う。

昭和のテレビはすでに死んでいる。
死んでいるからこのドラマは美しいのだ。

ドラマの中の向田邦子は美しかった。
ミムラさんが醸し出す哀情の世界観。

この美しい人が死んでしまうのか…と、思うから、今回は冒頭から涙目で見た。

 

しかし、描かれるのは徹子と邦子の「何気ない日常」。

たわいないお喋り。
机に向かう忙しい向田に構わず寝転がって本を読んだり。
一緒に食事をし、笑う。
土曜ドラマ トットてれび

 

そういう「日常」が美しくて大切なのだと、このドラマこそがこの1話だけで教えてくれた。

徹子は向田との会話の内容をほとんど覚えていないと言う。

女の子のお喋りはそういうものなのだ。
一緒に過ごす「時」が貴重なのであって。

同じようにテレビと向き合い、同じ時間をテレビの中で過ごし、同じ姿勢で仕事を真摯にこなしてきた、時代を代表する同士のような気持ちもあったのだろうし、そんな事は口に出さなくても一緒にいる時間がただ楽しかったのだろうし。
土曜ドラマ トットてれび

 

そして、「何気ない日常」は突然奪われる。

 

「向田さん、黒柳です」
「向田さん、黒柳です」
「向田さん、黒柳です」

留守番電話に残された何気ないいつもと同じメッセージ。

これを聞く人はもう居ない。

 

思い出だけがリフレインする。

その時。
何気ない日常をたくさん積み重ねていたことに価値が出る。

思い出の量と質は残された人が生きる糧になるから。

 

徹子は向田との初めての出会いを思い出す。

原稿の字がはっきり読めなくて。

「禍福の縄」
幸福と不幸は替わりばんこにやって来る。
決して1つにはならない。

 

けれども、

「あなたには幸せだけの縄があるのかも」

 

向田にとっては、徹子はそういうまぶしい存在だったのかも知れない。

 

向田にもまた徹子と初めて出会った思い出がある。

 

あの中華飯店で。
ふと原稿を書く手が止まるほど、威勢よくラーメンを平らげていた少女。
土曜ドラマ トットてれび

 

その思い出を抱いて、旅立つ。

 

「おばあちゃんになったあなたを見たい」

と言う向田の願いは叶わなかった。

 

「向田さん、私、面白いおばあちゃんになるわ」

 

邦子さんはきっと見ている。
テレビの外で。

 

向田が居なくなった残りの年月を今なお見つめ続ける徹子。
その空虚なお祭り騒ぎを私たちも日々体感する。

 

いつもいつも、幸せな気持ちに浸りながらこのドラマを見て、見終った後の喪失感に泣く。
今日は特に。

うんと幸せな昔の夢を見て、泣きながら目覚めた後のような、そんな読後感である。

このドラマと出会えたことも、私の大切なテレビ史の1つ。

 

※芯のある優しさと強さを併せ持つ向田邦子像を造り上げたミムラさんの記事。
『二度目の「向田邦子」役』 Memo | mimulalala.com | ミムラララ

 

 


徹子(満島ひかり)は、脚本家・向田邦子(ミムラ)のアパートに、毎日入りびたっていた。
たわいない会話をしながら過ごす時間は、2人にとって大切な時間だった。
時は流れ、邦子は初めて書いた小説で直木賞を受賞。
徹子は祝賀パーティーで司会を務めた。
邦子は「おばあさんになった徹子さんを書いてみたい」と言う。
しかし翌年、邦子は飛行機事故に遭遇。
青春の一時期をともに過ごした徹子と邦子の出会いから別れまでを描く。

(上記あらすじは「Yahoo!TV」より引用)

 

 

 

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※キャスト

黒柳徹子 … 満島ひかり〈子役期: 藤澤遥〉

渥美清 … 中村獅童
向田邦子 … ミムラ
伊集院ディレクター(伊集院正吉) … 濱田岳

黒柳朝 … 安田成美
黒柳守綱 … 吉田栄作

中華飯店の王さん … 松重豊
飯沢匡 … 大森南朋
大岡龍男 … 武田鉄矢
沢村貞子 … 岸本加世子
森繁久彌 … 吉田鋼太郎
坂本九 … 錦戸亮

百歳の徹子さん … 黒柳徹子

永六輔 … 新井浩文
笠置シヅ子 … 中納良恵
里見京子 … 福田彩乃
横山道代 … 菊池亜希子
女優の受験生 … 奥村佳恵
三木のり平 … 小松和重
E・H・エリック … パトリック・ハーラン
スリーバブルス・圭子 … 高橋愛
スリーバブルス・智子 … 田中れいな
スリーバブルス・直子 … 久住小春
キレイな女優さん … 内田慈
泰明ちゃん … 高村佳偉
お相撲さん … 富士東和佳
植木等 … 坪倉由幸
ハナ肇 … 杉山裕之
谷啓 … 谷田部俊
「若い季節」ディレクター … 北村有起哉
犯人(橘) … 志賀廣太郎
3人娘 … 花房里枝、高橋美衣、辻美優
篠山紀信 … 青木崇高
チャップリン … 三浦大知
青森のおばさん … 木野花
タクシー運転手 … 田中要次
プロデューサー … 岩尾望

語りとパンダ … 小泉今日子

※スタッフ

脚本 … 中園ミホ
演出 … 井上剛、川上剛、津田温子
技術統括 … 加賀田透
プロデューサー … 訓覇圭、高橋練

音楽 … 大友良英、Sachiko M、江藤直子
原作 … 黒柳徹子『トットひとり』『トットチャンネル』
衣装 … 宮本まさ江

公式サイト http://www.nhk.or.jp/dodra/tottotv/

 

 

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