【家族八景】 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad 第3話

「澱の呪縛」

家には、その家、その家のクセがある。

澱もあれば…臭いもある。

 

「家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad」第3話

 

      簡単感想で。

 

火田七瀬は、人の心が読めてしまう能力者である。

今回、七瀬が勤めることになったのは、神波家。

 

家族構成は、古本屋を営む主人・浩一郎、その妻・兼子。
後は、大学を出て就職したばかりの長男・慎一を筆頭に4歳の末っ子・六郎まで
8人の子供たち。大家族である。

 

店先で初めて挨拶した時、七瀬は浩一郎の言葉と心の中に違いがない事に驚く。

 

良かった~。 「よかったー。」
キミが来てくれて。 「このこがきてくれて。」
子ども達も… 「こどもたちも よろこぶだろう。」喜ぶと思うよ。

 

裏表なし。
良かった。良い人そう。

でも、臭いに関しては鈍感だ。

この家には、入ってきた時から、すさまじい臭いがあった。

どんな家にも、その家特有の臭いがある。
生活臭、埃臭さ、住人の体臭。

でも、この家の臭いは…すさまじい。

この人は、この臭いを何とも思っていないのだろうか。

 

ちょっと散らかってるけど 「ちょっとじゃないけど」
・・・びっくりしないで。

 

と、案内された家の中は、すさまじい状態だった。

紙だかゴミだか解らない物。ボロ布だか服だか解らない物。食べ物だか生ごみだか解らない物…

そんな物が周りに散乱するコタツの中で、奥様である兼子は寝ていた。

七瀬を紹介されて起き上がった兼子の心の第一声は

「すとらいーく!」

「ストライク?」

風呂場、トイレ、台所と案内された。どこもかしこもゴミの山。

心の声を聞く時、七瀬にはその家によって、住人の姿が違うものに見える。

この家の人たちは、どうやら獣に見えるようだ。

 

料理は私が作るから洗い物よろしくね。

あんたも食べる?

 

と、冷蔵庫から奥様に差し出されたのは「ストライクアイス」!

それを奥様は「ぱらだいす!」と思いながら夢中で舐めているのだった。

 

やっぱり病気が… 「なんつって」
まだ治らなくて… 「けびょうなんだけどね」
もう大変。 「なかなかの えんぎりょく。」「はりうっどじょゆう かおまけ?」

 

間もなく帰ってきた子供たちは、ご主人と同じく、表裏のない良い子たちだった。

初めて会った子供たちに「おねえちゃん」と言われ、七瀬は嬉しかった。

綺麗な目。裏表のない心。
怠け者の母親を支えながら明るく生きているこの子たち。
ちょっと健気かもしれない。
私をお姉ちゃんだなんて可愛いかも知れない。

しかし…やはり、子供たちもみんな臭かった。

この家族、良い人たちばかりだけど…

 

夕飯の食卓では、見た事もない、味の想像もつかない大雑把な料理が並んでいた。

子供たちは、それぞれ、好きな俳優の事を考えたり、テクマクマヤコンのことを考えたり…

料理の味には全く無関心。

 

この人たちは、この雑然とした家で暮らしている内に、味、臭いに
鈍感になってしまってるんだ。

その元凶は・・・

「らくしたい らくしたい らくしたい」

きっとこの人だ。

 

間もなく帰ってきた長男の慎一だけが、少し神経質な雰囲気をにおわせていた。

風呂の準備をし、風呂から上がった子供たちに新しい下着を出すと、

「これじゃ だめなの?」
「だって おとといかえたばっかだぜ」

次男に至っては、

僕は、こないだ入ったよ。

と、風呂にも入らない始末。

七瀬が風呂に入ると垢がいっぱい浮いている。

三男には七瀬の歯ブラシを使われた!

止めようとすると、

「なんだ おれ なんかした?」

…というか、歯ブラシの数が10人家族なのに5本しかない!

臭い。頭が痛い。このままここに居たら…

いつか私も、この家の家族のように、悪臭と汚さに慣れてしまうのかしら。

 

危機感を持った七瀬は次の日、大掃除を決行する。

台所に溜まった洗い物を全て洗い、風呂場を磨き、落ちている服を全て洗濯し、
主人に「近づかなくてもいい」と言われていた2階の子供たちの部屋も全て掃除し、
不要と思われるものはゴミ袋に詰めて捨てた。
ゴミ袋は何段にも重なるほどだった。
歯ブラシも家族の人数分買い揃えた。

…それでも…家に染み付いた臭いは取れなかった。

七瀬は疲れ果てて寝てしまった。

 

目が覚めると、家族が顔を覗き込んでいた。

疲れてるんだね。これだけ掃除してくれたんだもの。疲れるはずだよ。

俺たちの部屋、七瀬さんが掃除してくれたの?
ありがとう。
ありがとう。

しかし、言葉とは裏腹に、みんな全く嬉しそうではなかった。

「このひと かってに へやにはいった」
「いやだなあ」
「おれの あれを みやがったな」
「あれをみられた」
「あれをみて どうおもった」
「こいつ べっどのしたまで そうじしやがった」
「ぜんぶ みられた このひとは ぜんぶみた」
「のぞきや」「おせっかい」

獣の姿になった家族は、みんな心の中で綺麗になった事に戸惑っていた。
そして、七瀬を責めていたのだった。

しかし、綺麗な部屋で食べるご飯は美味しいな。
「おいしいのか? このめしは?」

今までウチは、汚かったから。

「やっぱり うちは きたなかったんだ」
「それもこれも ぜんぶ おふくろが ずぼらだから いけないんだ」
「うちは きたない」
「おれは きたない」
「このおんなからみたら おれたちは けものにみえるんだろうな」
「けものだ」

私はとんでもない事をしてしまったのかも知れない。
私がこの家を綺麗にしてしまった事で、彼らは自分たちの不潔さに気付いてしまったんだ。

 

「おれは もっともっと きたないことを した」
「もっと もっと」
「もっと もっと もっと もっと」

七瀬は、いたたまれず風呂場に駆け込んだ。

冷たい水を頭から何度も何度も被った。

 

澱のごとく沈殿していた生暖かく住み心地のいい、異臭に包まれた不潔さを
私はむき出しにしてしまったんだ。

 

翌日、七瀬はお暇をいただいた。

 

残念だけど仕方ないね。
何せ、ウチは……大家族だから…。

主人は、ほっとしたようにそう言った。

 

私が去れば、彼らは以前のように不潔さに慣れ麻痺していくだろう。

そうしてまた、ゆっくりと澱は溜まっていく。

 

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

恐かった…

いや、コミカルなんだけど、でも、怖かった。

以前、芸能人がゴミ屋敷を掃除してあげるという企画を見た。
その家のお婆さんは、綺麗にすることを嫌がっていた。

澱のごとく沈殿していた、生暖かく住み心地のいい、異臭に包まれた不潔さ

 

・・・でも・・・何か解るような気がしてしまうのだ。

だって、人間、何にも気にしなくなったら、こうなってしまうよね。
汚れている事も、やけに心地いいかも知れない。

 

何より…

そう育てられれば、それが当たり前になるのが「家」というもの。

生まれた時から、歯ブラシは家族で共有して使うものだと思っていれば…
当然、それが普通になる。

臭いも、慣れてしまえば普通になる。

ずぼらな主婦も…慣れてしまえば普通になる。

 

七瀬は、この家を綺麗にすることで「世間」をこの家族に見せた。

そして「世間」に気付いた(いや、知っていても知らないふりしていた子供も)
みんな、恥ずかしくなった。

この汚い家で、もっと秘密を抱えていたそれぞれの部屋もこじ開けられたことで、
彼らの心に「羞恥心」が生まれた。

そして、不思議な事に…

「表裏のない良い人たち」は、世間に触れた途端に、
心の中にも獣が生まれて来るのである。

まるで、アダムとイヴがリンゴを食べて、初めて自分たちが裸であったことを
恥ずかしく思ったようにね。

 

知る事と知らない事と、どっちが幸せかなんて…
それは誰にも解らないのだった。

 

次回(第4話)のゲスト出演者は、堀部圭亮、小沢真珠、未来弥
脚本は、江本純子さん

 

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※キャスト

火田七瀬 … 木南晴夏

第3話

神波浩一郎… 橋本じゅん
神波兼子… 清水ミチコ
神波慎一… 山本浩司
神波明夫… 浜野謙太
神波道子… 茜音
神波良三… 岡本拓朗
神波敬介… 野口翔馬
神波五郎… 武井祐人
神波悦子… 末原一乃
神波六郎… 藤木夢現

※スタッフ

原作:筒井康隆
脚本:池田鉄洋
演出:白石達也

 

 

 

 

コメント

  1. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    > 汚い家とか匂いとか、ラストの家族全員の不潔な思い出を見る場面は
    > どうやって映像にしてくれるんだろって楽しみにしてたんだ。

    堤さんの世界観と筒井康隆の世界観って似ている気がするー。
    こうやって映像化されてみると、結構イメージ通りと言うか・・・
    凄いよね。
    私の大好きな筒井さんの短編集も映像化してほしいよーー^^

    > 家族ってそういう恐ろしい面がある。
    > その家独自のルールが当たりになっちゃってるから、今回みたいに人の歯ブラシ使って、七瀬が顔色変えてるのにまったく気づかないってのもあるだろうね。

    家の習慣って自分たちじゃ気付かないもんだものね。
    それを外部から知らせてやるって言うのも勇気がいるし難しいかも。

    結局、「おかしいよ」って言っても「じゃあ普通って何?」という話になるわけで…
    解らないよねぇ…実は正しいも正しくないもないものね。

    > でも、七瀬が去ったら、また同じように戻るのかな?
    > それとも、一度認識してしまった自分たちは不潔だって思いは心の底にたまるのかちら・・・

    七瀬は、きっと戻ると言ってたよねー。
    戻って元通り家族で固まって暮らしていくか、世間に目覚めてみんな出て行ってしまうか…
    どっちなんだろう。
    戻ってしまう方がこの人たちにとっては楽なのかも。

  2. きこり より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    やっとこのドラマの雰囲気に慣れてきたというか・・今回は結構おもしろかった(´m`)
    汚い家とか匂いとか、ラストの家族全員の不潔な思い出を見る場面は
    どうやって映像にしてくれるんだろって楽しみにしてたんだ。
    息子役でハマケンが出てきてうれしかったわ~
    しかし、これはでも笑えない話だよね。
    家族ってそういう恐ろしい面がある。
    その家独自のルールが当たりになっちゃってるから、今回みたいに人の歯ブラシ使って、七瀬が顔色変えてるのにまったく気づかないってのもあるだろうね。
    衛生観念だけじゃなく、いろんな面で独自のルールを常識と思ってる場合あるもんね。
    初めて善良な家族にあたったのに、七瀬が清潔にしたとたんに悪意が芽生えるってのもおもしろいよね。
    知らなければ幸せだったのに・・って。
    でも、七瀬が去ったら、また同じように戻るのかな?
    それとも、一度認識してしまった自分たちは不潔だって思いは心の底にたまるのかちら・・・
    来週もおもしろいキャスティングだね( ´艸`)

  3. 新ドラマQ より:

    家族八景 – 木南晴夏

    家族八景
    木曜 24:55(MBS)
    火曜 24:55(TBS)

    [キャスト]
    木南晴夏 ほか

    [スタッフ]
    原作:筒井康隆『家族八景』(新潮社)
    脚本:佐藤二朗、池田鉄洋、前田司郎、江本純子、上田誠
    音楽:野…

  4. くう より:

    SECRET: 0
    PASS: d0970f9a670a457ba04fd47a84598fe5
    > 七瀬は『蛇』であり『神』なのですな。

    なるほどー・・・家族にとってはそうですよね。
    「清潔」という知恵を吹き込みエデンから追い出した。

    > しかし、楽園から追放されたのは
    > 「彼ら」ではなく「七瀬」だった・・・と考えると
    > ますます、この作品の哀しさが面白可笑しく胸にしみますな。

    教えない方が幸せだという家族がある事を知ってしまった。
    この家はみんな裏表なく、七瀬にとっては居心地良い職場だったはず。
    でも、耐えられない物があった。
    七瀬にとってはホッとするとともに寂しさもあったことでしょう。
    そう考えると気の毒でもあります。
    余所のお宅の習慣を指摘するって難しい事ですよね^^;

    湯船は…永遠に薄まならない気がいたします。
    今回は、垢の力でより濃くなっていたような~^^;

    > 人間、そこそこが一番でございます。

    私もそこそこを保って生きておりまする。
    完璧にしようとすると自分が壊れるのでございます(;_:)

  5. 家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad 第3話 澱の呪縛

    『澱の呪縛』

    内容
    七瀬(木南晴夏)がやってきた古書店を営む神波家
    古書店と言うだけで無く、異様なニオイが充満していた。
    主人の浩一郎(橋本じゅん)と話をした七瀬は、ウラオモテが無い人物だと理解。
    と同時に、角と鼻輪!?、、、この家族は、獣の姿に見えるよ…

  6. キッド より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    七瀬は『蛇』であり『神』なのですな。

    清潔にすることと『智恵の果実』を食べることが
    全く同じものだったとは・・・
    ご慧眼に畏れ入りましたのでございます。

    しかし、楽園から追放されたのは
    「彼ら」ではなく「七瀬」だった・・・と考えると
    ますます、この作品の哀しさが面白可笑しく胸にしみますな。

    キッドとしては一向に湯船の透明度が
    高くならないことが残念ですが
    一部愛好家にとっては今回の入浴シーン、別の意味で
    痺れたはず・・・と申せましょう。

    まあ、そこそこ家をきれいにして
    そこそこおいしい料理をつくって
    そこそこみだしなみを整えれば
    そこそこ愛してもらえているはず・・・

    人間、そこそこが一番でございます。

  7. あらゆる排泄され分泌され吐瀉されたすべての汚物、不潔な残滓、異臭の黴菌に嗚咽する乙女(木南晴夏)

    至って健康的で、「おしりだってあらってほしい」文化のもと、除菌、消臭、衛生的な現代人にとって・・・ものすごく曲がりにくいコーナーが原作の「澱の呪縛」である。 原作順で言うと・・・「無風地帯」→「澱の呪縛」であり、ドラマ化にあたって第4話にあたる「水蜜桃」…

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