【坂の上の雲】第十二回(第3部3話)

真之(本木雅弘)はバルチック艦隊との決戦に備え、「七段構えの戦策」を立案。
準備を整え対馬海峡で待機する連合艦隊だが、敵艦隊は現れない。

津軽あるいは宗谷海峡に回るのではないかと業を煮やした真之は、東郷(渡哲也)に
艦隊の移動を進言するが、東郷は「敵は対馬に来る」と、ひと言。

一方、陸軍はロシア軍との一大決戦を迎える。
好古(阿部寛)の活躍もあり、“日露戦争の関ヶ原”と呼ばれた奉天会戦に勝利するが…。

 

~ Yahoo!TVより引用 ~

      

 

第3部・第12回。

明治天皇の御言葉から。

 

万難を排し今日の成功を収めた事を嬉しく思う。

なお、前途は遼遠なり。

将来に対し、ますます奮励努力するように。

 

東郷は、

 

ロシアの増援艦隊が来るというが見込みはあるのか。

 

というご下問を受け、

 

バルチック艦隊が来ましたならば、誓ってこれを撃滅し、宸襟を安んじ奉ります。

 

と、真っ直ぐに応える。

 

そのバルチック艦隊は、今何処にいるのか、いかなる戦略を練っているのか、真之たちには予測も出来ない状態であった。

 

真之は、久しぶりの休暇で家へ帰る。

家には、母と義姉の多美も子供らを連れてきており、賑やかに迎えてくれた。

 

真之さん、バルチック艦隊は今どの辺りにいるんでしょう?

それが分かれば苦労はありません。

 

女たちの他愛もない疑問に真之は軽く笑った。

日本海軍にとっては大変な問題である。

 

勝つわよね?

 

戦場を知らない女たちにとっては、ただ夫の帰りを待つ希望だけが戦うと意味である。
多美の言葉には、日本で帰りを待つ人たちの希望が込められていた。

 

勝ちます。

 

その頃、好古の騎兵隊は、奉天を陥とすために前線にいた。

1万騎以上の敵軍が渾河と遼河の中間地点を移動しているのを見つけた好古の部隊は、
それを旅団司令部に報告する。

しかし、本部は暢気なものだった。

 

この凍った地面を相手に壕を掘るなどと。
いくら腕力が強いというても、つるはしが跳ね返るだけ。

決戦は春じゃな。

 

かくして、前線は援軍のないままロシア軍の奇襲を受けることになる。

好古の部隊は馬を捨て、徒歩兵として応戦し、多数の犠牲を出したのち、
五分五分に何とか持ちこたえる。

 

転がった遺体に手を合わせる好古の元に、本部から松川がやってきた。

 

しかし、難戦でしたな。

と、さらっと言う松川に、好古は静かに怒りをぶつける。

 

松川。

「難戦」と言うて片づけては、死んだ者に無礼だ。

もともと、敵が大集団でやって来るという様子については、あしの手元から
何度も報告し、警報してきたところだ。

それを軽視しきっていたためにこの不始末だ!

松川、そうは思わんか?

 

渋い顔をして黙り込む松川。

 

こんな事は、いかんのだ。

こんな事は、いかんのだ!

 

いよいよ奉天の決戦になり、指令本部は乃木の第三軍を前線左翼に配置した。
これは、「遠距離運動をもって敵の右翼へ出、さらに迂回してその背後をつく」
という作戦に基づいた配置であったが、乃木は「全軍の犠牲になる」という
悲劇的な理解をしていた。

かくして、第三軍は次々と兵を失い、援軍を頼むも受け入れられない。

本部からの第三軍の要請に対しての答えは、

 

「総司令部は、第三軍に多くを期待していない。
兵を渡しても、また無駄死にさせるだけだろう」

という冷たい物である。

 

好古は、本部で今の作戦のまずさを指摘し、 

 

「秋山支隊は臨時に乃木軍に合すべし。
乃木軍北進の先駆けとなり、遠く奉天北方の鉄道を破壊せよ。」

 

の命令を受ける。

状況は絶望的にも思えたが、ここでロシアが意外な行動をとる。

 

戦術の原則として小部隊が大部隊を包囲するということはありえない。

しかし、日本が大胆な包囲作戦をやってのけたため、敵将・クロパトキンは、日本軍は、
まだ大きな戦力を予備に抱えていると思い込んだ。

そして、撤退してしまったのだった。

 

3月9日、朝。

異様な気象現象が満州の野を覆い、この会戦をいっそう劇的なものにさせた。

「大風塵 起ル」という意味の表現が、あらゆる戦闘報告や記録に出てくる。

この狂風と黄塵が天地を昏くし続ける前、未明からロシア軍の退却が始まっていた。

 

風塵が晴れた朝、彼方に見える輝く奉天の美しさ。

 

一方、真之が所属する海軍は日本海上にあり、船の中でもんもんとする日々を送っている。

バルチック艦隊の動きがまるで見えなかったからである。

日本海側に来るのが普通であるが、意表をついて太平洋側に回ってくるかも知れない。
何処で待つか、何処で攻撃するか、何の作戦もないまま、ただ不安な議論を繰り返す。

真之は東郷に、封密命令を出すように要望する。

 

「今に至るまで当方面に敵影を見ざるより、敵艦隊は北海方面に
迂航したるものと推断す。

連合艦隊は、会敵の目的をもって今より北海方面に移動せんとす。」

 

対馬を捨てるち言うとな?

 

いえ、そうではありません。

しかし、万が一の場合に備えて北上の準備もしておくべきと考えます。

 

東郷は非常にあっさり、

分かいもした。用意しやんせ。

と、了承した。

 

この作戦には、東京の大本営部からも反対が出たが、艦内の会議でも当然反対の声が上がる。

第二戦隊司令官の島村は、

 

その結論はいかがなものかのう。

敵が、いくらかでも航海いうものを知っちょったら対馬海峡を必ず通る。
それは道理じゃ。

その敵が遅い遅いとキリキリするがは、まるで巌流島じゃき。

と笑う。

 

真之は島村と共に、東郷に意見を聞きに行った。

 

長官は、バルチック艦隊はどの海峡を通ってくるとお思いですか?

 

そいは対馬海峡じゃ。

 

何で・・・。

敵がここを通るっちゅうて通る。

 

真之が進言した封密命令を呑んでくれたのは東郷自身だ。

 

では・・・封密命令の開封は?

 

いざ動く時には封密命令のとおりでよか。

じゃっどん、動くのは新たな情報が入ってからじゃ。

まだ待つ。

 

島村は、真之の肩を抱いて笑った。

長官がああ言うてくれた以上、あとは安心して思い切りやったらええがじゃき。

秋山。
気張りよ。

 

5月27日、ついにバルチック艦隊は、対馬沖に姿を現す。

 

「敵艦 見ユトノ警報ニ接シ 連合艦隊ハ 直チニ出動。
之ヲ撃滅セントス」

大本営へのこの伝文の終わりに、真之は付け加える。

 

「本日 天気晴朗ナレドモ 浪 高シ」

 

海軍戦が、いよいよ始まろうとしていた。

 

 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

「本日 天気晴朗ナレドモ 浪 高シ」

有名な一文。

今日は晴れているので出撃可能。敵艦もよく見える。
波が高いので主力艦だけで行くが相手も狙いが付けにくく撃破しやすいだろう。

「だから勝ちますよ」という意味が、この13文字に込められている。

真之が掲げていた「Z旗」は、アルファベットの最後の文字「Z」をして、
文字通り「最後」を意味する。つまり、後はないという事だ。

陸軍の悲惨な戦場を散々目にし、しかし、勝ち抜いた後の悲しくも清々しい光景も見て・・・

今度は、いよいよ海である。

 

素直に勝った事を喜び、作戦や人心にワクワクすればいいのだろうけれども、どうしても、日本の馬鹿さが目に付いてしまう。

 

児玉は元来、日露戦争を純粋な意味での軍事的勝利で解決できるとは思っていなかった。

冷静な計算の上では、どのように日本軍が勇戦敢闘しても五分五分に持ってゆければ
上等であり、それを何とか作戦の面で敵を凌駕して六分四分に漕ぎつけるというのが
大山・児玉の目標であった。

日露戦争の陸戦は、その「六分四分」というわずかな勝ち星を得つづけて今日まできた。

 

このナレーションに愕然とする・・・

つまり、日本は初めから戦で勝てるとは思わない戦いを仕掛けて行ったんだよね。

五分五分だったら相手も驚くだろうから、後は話し合いで上手く勝ちに持っていこうと…

あの、戦場でどんどん屍になっていった兵士たちは、初めから無い物と知って
命を持って行ったという事である。

その五分五分の勝利だって、偶然のような幸運から得たもの。

こうやって、「神風」が何度も吹くから、日本は調子に乗って太平洋戦争まで
行ってしまったのだろう。

 

なんて、愚かな国なんだろう・・・

 

だからと言って、このドラマを否定しているのではないですよ。もちろん

前にも書いたけれども、人間は死をリアルに見なければ生きている実感を
持つことが出来ない。

ここで、バタバタと屍になっていく兵士を見て、この愚かな考えの戦争を見て、
見た者が「戦争なんてやることに意味があるのか。」これを考えればいい。

そういう事をリアルに考えさせてくれるのは、終戦記念日辺りによくやる
お涙頂戴の戦争ドラマや映画ではなく、こういうリアルな映像なのだと私は思う。

 

人は誰でも努力すれば上へ行ける熱い時代。

上へ行こうと国全体が努力した時代。

 

その素晴らしさを見習いつつ、しかし、戦争という物の虚しさを考える。

 

「坂の上の雲」は、本当に名作だ。

 

あと一回。来週、最終回。

3年間続いたこの素晴らしいドラマの結末を楽しみたい。

 

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【キャスト】

 

秋山真之 … 本木雅弘
秋山好古 … 阿部 寛
正岡子規 … 香川照之

広瀬武夫 … 藤本隆宏

正岡 律 … 菅野美穂
秋山多美 … 松たか子
秋山季子 … 石原さとみ

秋山久敬 … 伊東四朗
秋山 貞 … 竹下景子

正岡八重 … 原田美枝子

八代六郎 … 片岡鶴太郎
夏目漱石 … 小澤征悦

乃木希典 … 柄本明
乃木静子 … 真野響子

高橋是清 … 西田敏行
児玉源太郎 … 高橋英樹
山本権兵衛 … 石坂浩二
加藤友三郎 … 草刈正雄
島村速雄 … 舘ひろし
有馬良橘 … 加藤雅也
日高壮之丞 … 中尾彬

東郷平八郎…渡哲也

伊藤博文 … 加藤 剛

 

語り:渡辺謙


コメント

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    あらすじ・・・・

  5. ドラマ「坂の上の雲」第12話「敵艦見ゆ」

    陸・海開戦-----------!!

    ついに日本へ戻った、東郷たち海軍。

    明治天皇に挨拶し、東郷は必ずこれを撃破すると宣言!!

    久しぶりに戻った我が家。

    季子や多美、好古の子供達が出迎えてくれたのだ。

    なんだか面映い真之。

    最近戦闘シーンばっかだったから…

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  7. ふるゆき より:

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    とうとう、ここまで来ましたね。
    さすがに今回は、陸で好古が、海で真之が躍動していました。
    何もしないうちから「いくさは嫌じゃ」ですますドラマと違って、これでもかと凄絶なシーンが続きますが、ほんとうに戦争は恐ろしく、また空しいものだと口先でなく映像で語ってくれます。

    原作で読んだバルチック艦隊の、悲痛なまでの苦難をともなう大航海がやや省略気味で感じられないのは残念ですが、いよいよこの大作も最後のクライマックス。
    司馬さんの原作を懸命に映像化した作品の結末を、しっかり見たいと思います。

  8. 『坂の上の雲』 第12回「敵艦見ゆ」

     旅順港内のロシア艦隊を、二百三高地の占領につづく猛砲火で撃滅したことで、連合艦隊は不断の監視任務から解放され、バルチック艦隊の迎撃にそなえる準備と猛訓練に入りました。真之は、久しぶりに家へ帰ります。母や妻は、みな変わらず迎えてくれますが、さす…

  9. スペシャルドラマ『坂の上の雲』第3部第十二回 敵艦見ゆ

    『敵艦見ゆ』

    内容
    ロシアの旅順要塞、旅順艦隊を撃破した日本軍。
    東郷(渡哲也)の連合艦隊は、バルチック艦隊を迎え撃つ体制を整えていく。
    そんなおり、明治天皇(尾上菊之助)に謁見した東郷は、勝利を誓う。

    そのころ、総司令官クロパトキン率いるロシア陸軍の動…

  10. Largo より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    五分五分、何とかして六分四分。
    国家としての大博打。
    でも、その博打で倒れるのは、人間。

    日露戦争は、当時の政治力学上、避けられない戦いだったのかもしれません。
    亡国の民になるかどうかなど、「国」という重みを考えると、きれいごとではすまないことですし。
    でも、政府も国民も、この綱渡りの総力戦から学ぶことは多かったはずなのになぁ、と。
    戦争を避ける方法とか・・・。

    >その素晴らしさを見習いつつ、しかし、戦争という物の虚しさを考える。
    リアルな映像だからこそ、色々考えさせられます。

    回想での正岡子規の、人の命に違いはあるのか、という言葉が印象的でした。

  11. 『坂の上の雲』第12回「敵艦見ゆ」~死屍累々 戦争ドラマ

    『坂の上の雲』第12回
    「敵艦見ゆ」

    前回、今回だけを切り取ってみると、迫真の戦争ドラマ。
    戦場の空はどこまでも灰色で、砲弾、銃弾、雨あられ。

    奉天会戦で、児玉源太郎(高橋英樹)大山巌(米倉斉加年)が仕掛けた戦法は、ロシア軍アレクセイ・ニコラエヴィッチ…

  12. 青いblog より:

    坂の上の雲 第12回 「敵艦見ゆ」

    坂の上の雲〈1〉 NHKスペシャルドラマ・ガイド 坂の上の雲 第3部 文藝春秋増刊 「坂の上の雲」日本人の勇気 2011年 12月号 [雑誌] 解説 番組概要 一向に現れないバ…

  13. 坂の上の雲 「敵艦見ゆ」~天気晴朗なれども、浪?し。

     「それもまた痛快よ」
     迫り来るロシア軍の大軍を前にしての秋山好古(阿部寛)のせりふ。
     騎兵がもたらした情報を無視して援軍を送らない満州軍本部。後に「こんなことはいかんのだ」と語ったように、この時、好古は援軍が来ないことに関して怒り心頭であっただろう…

  14. NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲第3部」第12回「敵艦見ゆ」

     返す返すも凄惨な戦いでありました先週の二○三高地、行き詰った乃木司令に成り代わって颯爽と指揮を執った児玉総参謀長がカッコ良かったですねえ。割を食って無能な指揮官ってな感じになってしまった乃木司令がちょっとお気の毒な感じも・・。最初は児玉様だって要塞攻…

  15. 「坂の上の雲」第3部第3話満州でロシア軍を退けいよいよバルチック艦隊との戦いが始まった

    「坂の上の雲」第3部第3話は旅順を攻略した日本軍は海軍を1度呉と佐世保に退却させ、満州軍はロシア軍と対峙した。数で劣る日本軍は作戦でロシア軍を翻弄し、ロシア軍は日本軍 …

  16. BROOK より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    >有名な一文。

    この一文が出てきた時は鳥肌が立つような感じがしました♪
    いよいよロシアとの決戦が…!
    盛り上がってきましたね。
    個人的には陸上戦よりも海戦が好きなもので。。

    私も六分四分の件には驚きました。
    圧倒的とかではなかったんですね。
    いつもギリギリって…(汗)

  17. スペシャルドラマ「坂の上の雲」第12回

    バルチック艦隊が、やって来た…

    詳細レビューはφ(.. )
    http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201112180003/

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